0036:勇者様の味方
さて。ここにこの二人が現れたのはどういう訳があるのだろうか?
当然詳細は判らないが「やっぱ、使えねえな」、そして「「勇者様」の命を速やかに遂行出来ぬ愚か者は消えろ」……この二つのセリフ。うん。明らかに悪者だ。
唯一良かったのは。俺がなんとなく、生理的に嫌いだなぁ、オメエは勇者を名乗るな、出来れば将来ヤツをぶっ倒して勇者を名乗らせない様に潰そうと勝手に敵視していた自称「勇者」現役ランキング首位の「無双」間宮宗一が「黒幕にして悪者っぽい」ということくらいだ。
そうかぁ。あの「勇者」……根が腐ってたかぁ。うんうん。俺の目もまんざらじゃないな。
で、この二人は勇者一味というか、勇者の部下とかになるんだろうな。
「私は最初から捨て駒ですか」
「くくくくく……当然だろ? ザーコ。お前、調子乗りすぎなんだよ。今回はそのルーキーを痛めつけるのに加えて、お前を痛めつけて、廃業させるのが、勇者様スケジュールってやつだ」
「廃業……ですか」
「まあ、軽く……じゃねぇな。すまんな。俺達がやる以上は腕と足、損失で車椅子だな」
「やはり、か。オマエらが的場を……」
「そうですな。お前の予想通り。背後からの一撃であっさり気を失って……くくく。彼の入院費、かさむようで。ああ、あれは近年まれに楽しかった」
「……」
クールというか、余り感情を荒げないタイプであろう甲田さんが、明らかに激怒している。表情はほぼ変わらないのに、ギリギリと奥歯が軋む。音が尋常じゃない。
非常にわかりやすい。
まあ、とはいえ。相変わらず、ピンチ……というか、面倒くさい事態なのは変わりない。そこで、余り使いたくなかった札を一枚、切ることにした。
そもそも。俺がこの、十三階層に居たのは暗所戦闘や集団戦の訓練のためではない。最高到達階層の更新はあくまで手段であって、目的ではない。
昨日に続き、現在、巣鴨迷宮は迷宮局の「調査管理中」なのだ。俺に対しての管理局からの指名依頼は比較的浅い階層の念入りな調査。
そう、俺は自分の行動可能範囲を順番に調査し、結果、この階層にたどり着いた。そして当然、未踏破階層なだけに足止めをくらい、「やむなく」戦闘を行っていただけなのだ。暗いしね。ログにはそういう風に表示される。ハズだ。
今、周りにいる奴らにはどうでも良いことだろう。目標となる「的」がここにいた。だからここに来た。それだけ。
奴ら位の実力者への指名依頼は「迷宮の全体的な調査」だろうしな。自由度は高いので、こうして俺を襲撃するなんてことも容易だ。
「て、て、敵?」
まあ、あまりにも分かりやすいけど、念のために、ね。再確認。聞いておかないとね。
「ええ、先ほど我々共通の、となりました」
「くくく、ルーキー、恨みはないが、今日から車椅子と仲良くしてくれや。一生な」
こいつ、車椅子とか一生とか、覚えた単語を繰り返してる感じだな。頭悪いというか、脳筋ってヤツだな。あまりに見かけ通りだ。
「ぱ、ぱー、ぱーてを」
「はい」
向こうを抜けたハズの甲田さんをパーティに誘う。あいつらがここに現れたってことは、彼らはパーティを組んでいたハズだ。
パーティは腕輪の機能の一つだ。
パーティを組んでいると、メンバーが迷宮内で何処にいるかが何となく判る。更に何となくだけれど、どういう状況、状態かも判る。この辺は教習所時代、仮免時の実地講習で体験済みだ。
予想だけど。さっき言った通り、甲田さんとこいつらも、俺の様な低級の探索者が今回の巣鴨迷宮で指名依頼を受けた場合、上階から偵察していくのが当り前だと考えたハズだ。
なので、甲田さんは上階から順番に探索して来て、ここに辿り着いた。暗いだけでほぼ一本道で分岐もあまり無く、分かりやすいからね。この階層は特に。
つまり、奴らがここにたどり着いたのは甲田さんがここで戦っていたからだ。
詳細……彼が俺に切られ、敗れたことまで知ってるかはともかく、負けたことは確実に伝わっている。だから初っぱなからあんな感じだったのだろう。
(い、一時、自分を、ふ、フォローする、するように、動いてくださ。お願い、しま、す。むりせず)
更にパーティメンバーはそば=半径約30メートル以内にいると、頭に思い浮かべた「言葉」を発声せずに伝え合える。意思疎通、念話。これをパーティ会話と言い、慣れるまで、個人の思考が只洩れになってしまう人もおり、これで探索者を辞めた、挫折したなんて話も良く聞く。
通常の会話が苦手な俺は……発声しなくて良いので、かなり楽な気がする。そっかー実際のパーティ会話、念話ってこんな感じなんだ。パーティ組まないからほとんど使って無くて、すっかり忘れてたけど。
(了解)
甲田さんからのメッセージの様に大抵は短い単語を使う。攻撃のタイミングを合わせたりに使うことも多い。
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