0035:偽
そんな「出来る」探索者が、本人の言うとおり、なぜ、こんな尻拭いな理不尽な依頼を受けているのか。何か事情があると思うのが当然だろう。
さらに言えば、何故「裏」を名乗ったのか? 嘘では無いだろう。これはもう単純に、俺に降参させたかったんじゃないだろうか? ビギナーの気力を削ぎ落とし、諦めさせるのにその名は、その手のダークサイドの噂は非常に効果的だ。
搦め手で、自分に絡んできたチンピラ? だか、工作員だかを撃退した、ルーキー。さぞやイキがっているだろうと思い、精神的に潰す。肉体的に傷つけるのは、その次の手段と考えていたのではないだろうか?
「ちっ……そんなとこまでお見通しですか」
舌打ちが響いた。
「判りました。此方としては不満が有るわけないです。出来れば、この二千万もちょっと待ってもらえると嬉しいのですが」
「い、い、いいですよ?」
「言ってみるものですね……」
こちらが受け入れるとは思ってなかったらしい。元々無かった金だ。別に支払なんていつでも構わない。
ん~とまあ、いずれは。
自分なりに納得のいく実力が身に付いた暁には、目立つことは仕方がない。必然的にランキングも上昇しているだろうし。
子供の成りたい職業、7年連続1位は伊達じゃないのだ。俺の様にランカーを百人以上暗記している探索者ヲタクは子供から大人まで相当数いる。一般に知られていない「裏」のランキングすらそこそこ記憶しているし、表で活躍しているのなら、顔や姿、得意な武器が一致するところまである。
だがもしも、自分がランキングに入るのであれば、自分なりに納得のできる実力が欲しい。ラッキーパンチでとか金の力とか、そういう余計な要素は持ち込みたくない。最低限、自分が認めた先達の足元に堂々と立てるくらいにはなりたいかな。
ゲイショタが49位。裏ランクは純粋に戦闘能力だけだが、判りやすい。この上に48人。
「ひ、ひと、ひとつ、一つお、おおしえ、て、ください。ゆ、「勇者」は」
目が細まった。ビンゴだ……何となくピンときたのだ。
「あ、あなたの、何倍位、つ、つ、つよ、強いで、て、て、て、で、し?」
見開いた目。一瞬、瞳孔が収縮した。
「何故そう思ったのです? 何故その質問をしようと?」
「な、な、なん」
「何となくですか。今後、貴方の言いたい事が判った時点で、話している途中でも確認を入れます。気を悪くしないでください」
「い、い、いえ、む、むいしろ、おね」
「こちらこそお願いします。貴方の発する吃音、ドモリは、私の知っている病、精神疾患から発生するモノとは異なる気がします。ならば、会話途中でのインターセプトも問題ないかと判断しました」
うん、その通り。問題ない。というか、そっちの方がありがたい。
「「勇者」……いえ、それは現ランキング1位、「裏」ランク3位の「偽」勇者……間宮宗一のことですか?」
「は、はい」
「間宮宗一は……強いですよ? 私など一蹴です」
「たわたたた、たた、かったと、事が?」
「ええ……対峙して、数秒後。意識を失いました。吹き飛ばされた先が、運良く草藪で。クッションになったおかげで四肢に損失無し。意識を取り戻して、即一目散に退散。何とか逃げ切りましたが」
「ゲイショタ」……いや。この通り名にも何か訳がある気がする。甲田、いや、甲田さんは根本的に善人なんじゃないか? 外見に似合わず。
「何故……間宮を?」
「ゆ、ゆ、ゆる、許せない、ん、んですよ……し、しかく、資格もな、無いのに「勇者」をな、名乗」
「ああ、それはとても気が合いますね。私もヤツが大嫌いです」
うん、笑顔がなんというか、爽やかでは無い。ちょっと怖い。
「やっぱりか。「ゲイショタ」ぁぁ、お前やっぱ、使えねえな」
やっと御到着か。ここに向かってくる二人は少し前から把握していた。まあ、今の台詞から察するに甲田さんを「使った」側か?
「く。大垣……柳原もか」
「「勇者様」の命を速やかに遂行出来ぬ愚か者は消えろ」
現れたのは二人。ああ、これまた俺は……良く知っている。それにしても、なんでこういう展開になっているのかも良く判らないけど。
確か、表ランク54位の「哮る鉄塊」大垣省三。
58位の「黒き刃」柳原誠。
どちらも今年のランキングでは、運悪く「勇者」絡みのトラブルに巻き込まれて、貢献度を稼げず、その順位に収まったが、確か、去年は両方とも30位台だったハズだ。一線級の実力者……と言って良い。だが正直、俺の「出来る」リストには入っていない。
ちなみに。トラブルっていうのは、「勇者」の邪魔をして、ぶっ飛ばされたっていう単純なものだったハズだ。どの程度かは判らないが、ネットの噂では2人ともかなりの脳筋系だったと思う。
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