0031:裏ランク

「癒し系ってほんわかしてる感じだけどな。オマエら結構マスコット……ぽくねぇな。顔は鬼系だし。ちゅーか、ごめんな。癒し系潰しちゃって」


 そういう意味じゃねぇわっていうツッコミは当然ない。というか、人間の言葉を理解出来る魔物は未だに見つかっていないそうだ。


 って……右手の闇の中……ちょっと離れた角で何かが動いた。くっそ。こんなに近づかれるまで気付けないとは。多人数戦はやはり鬼門だ。


 全くそちらを見ずに、前衛系マッドノームにロングソードを突き入れた。


一。


 踏み込んだ右脚を中心に、勢いのまま抜いた刃を大きく旋回させる。傍にいた二体目は根元で斬り落とし、三体目の喉に刃がぎりぎり届いた。


二、三。


 頭部がくびれて……血が溢れる。


「君は魔物とは話せるのですね、あのような大きな声で」


 良かった。邪魔者が入ってくる前に不安要素を消去できて。


 軽く感知能力で奴以外を検索する。少なくとも近所には何もいない。ソロか。冷や汗が伝って来るのを感じる。この暗闇の中をたった一人。どうひいき目にみても、訳ありだ。俺と同じく。


「重度のコミュニティ障害と聞いています。何かと苦労もしてきたことでしょう。私もマイノリティに属するものですから。同情します。が。申し訳ありません、何の恨みも無いですが、あの人たちにもプライドがありましてね。仇討ちってヤツです」


 昨日、薬でやった奴らの話か……プライド? まあ、そうだね。あるだろうね。


「そう捨てたものでもないんですよ? あんなんでも。君からしてみれば、ザ・雑魚2人だったでしょうけど」


 ちっ、隙がねぇ。逃げは無しだな。こりゃやばいなぁ。ん? 雑魚? 昨日処理した尾行者たちは3人だ。さらにお漏らしの関係者臭い。雑魚で2人といえば……軽装フルと重装フルの2人くらいしか思い出せないな。


「探索者「裏」ランク、第49位、甲田進次郎。大丈夫、君は好みではないので半殺しだけで勘弁してあげます。ああ、君と同じ様に安全地帯に捨て置く事にしましょう。四肢の骨を砕いて」


「げ、ゲイショタ……」


「くくく、ざんねーん、その噂通りであれば助けてあげたかも何ですが。真実はそんな趣味は一切無いのです。残念だ」


 なっ、ばっ。「裏」の49位……ランカーって、親が子供の喧嘩に出てくんじゃねーよ。今、日本に探索者が何人いると思ってんだ。約五万人だったか? その中の戦闘中毒患者キ○ガイバトルジャンキーの上から49番目じゃねーか。


 迷宮文化……迷宮から発生した様々な事象はそう呼ばれている。中でも、未だに公式には存在すらハッキリしていない、最大のネタが「裏ランク」だ。


 始まりは迷宮初期。当時の上位探索者同士の喧嘩だと言われている。どっちが強いかで口論となり、そのまま、全力の戦いとなった。

 台地がえぐられ、森が燃え、最終的にはダンジョンが歪み、負けた方の探索者は数時間後には死亡するような重症を負った。探索者、特に上位の者が本気を出し合えば、敵わなかった方は死ぬ。塵芥となる。


 一瞬で死んで手遅れになっていないだけ、加減はしていた……ということなのだ。


 その場は迷宮内だから、本人の能力、魔術があり、癒しの術のおかげで何とかなったものの。


 迷宮外であれば当然、迷宮内での探索者同士の死闘は、日本国内の法が適用され、警察に引き渡される。当然、犯罪者になれば探索者免許も剥奪だ。


 普通に考えて決闘騒乱罪、いや、只単に傷害事件、勝った方が殺人未遂で即逮捕である。が。適用されなかった。


 何よりも、証拠がなかったのだ。事件があったという。根本的な。


 基本、この手の事件、事故は現場第一主義だ。現場で何が起こったか? 捜査官始め鑑識官などが情報、物証を集めて裁判官が裁く。


 腕輪のログを読めば、一目瞭然。殺人未遂はあった。が、殺人未遂の被害者には一切の傷が無い。現場は……迷宮二十五階層。通常の捜査官が辿り着くのは難しい。捜査が行えない。当初は迷宮局の実務部隊、討伐部の元になった部隊が警察機能を備える……予定だったそうだ。が。関係各所からの横槍と、純粋に発見される迷宮数に合わせた必要人員を確保出来ず断念したという。


 何よりも。迷宮は、魔物同様、傷付いた自らの身体を癒す。派手な戦闘の痕跡は三日程度で消え去ったそうだ。

 さらにいえば、被害者も非協力的だった。こっちは負けてんだ、そんなみっともないことができるか。と。

 これでは、幾ら非親告罪であっても通常の……迷宮外での司法で裁判を維持し継続するのは非常に難しい。


 その結果。同意の上なら、殺さなければ、薬を用意していれば。


 最終的には3級探索者以上の「立会人」がいることが唯一暗黙のルールだそうだ。


 で。今……俺は決闘に同意してもいなければ、周りに立会人もいない。かなり離れた所にマッドノームのパーティがいるくらいだ。


「余所見はいけません」


グォッ!


 余所見してねーよ。そんなんしてたら、即やばい一撃じゃん。避ける。まあ、ね、この手の仕事をするヤツは、とにかくスピード命だしね。本来の相性は尋常じゃなく悪いよね。





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