0030:マッドノーム狩り

 俺は自分の感知能力を駆使して、先へ進んでいた。


 正直、灯りの魔術を用意してじっくりと進めるのはきちんと人数の揃っているパーティだけだ。


 俺みたいにソロの場合は、スゴスゴと引き返してパーティーを組んでから再挑戦するか……灯り以外の術を使って、暗闇を自分のモノにして探索するしか無いのだ。


 この場合、俺は、感知能力があって良かったということになる。


 ただ……正直、俺の感知能力は複数の敵とやり合う場合、その能力が著しく低下する。敵が1体であれば、真っ暗闇の中であっても、その動きは手に取るように判る。まるで明るい場所でハッキリとその行動を見ているかのように、伝わってくる。


 が、複数と相対すると、情報量の多さに脳が耐えられないのか、もの凄い薄い情報しか伝わって来ない。この辺だと……マッドノームが3~5体で集団行動をしているのがやっかいなのだ。

 仕方ないので、囲まれたりした場合は、敵を集めてしまう等、いろいろと覚悟の上であまり明るくない灯りの術、光球を生み出して、目でも対応、敵を捉えるようにしている。


 この広間には……マッドノーム集団が4団体か。ああ、体育館くらいの広さとは言ったが、あんな風に全く何も無いわけじゃない。広間には岩っぽい壁とか、タワーみたいなのとか、鍾乳石みたいなのとか、妙なオブジェクトが乱立している部分も多く、次の通路を探し求めて探索するしかないのだ。


 それにしても不思議な洞窟だ。鍾乳洞……ではないのに、それっぽい部分があるし、それにしては全体的に乾燥している。砂漠の下に大洞窟がある……なんて物語があった気もするが、そんなのどう考えても天井を支えることが出来ないし、そもそも砂礫に押し流されて、空洞を維持できないハズだ。


 うーん。昔……海の近くで形成された鍾乳洞で……まず空洞が出来上がり、固まって、地殻変動があってそれが乾燥した? そんなエリアが迷宮の階層になった? って感じとか? わからん。まあ、迷宮が不思議空間だしな。


 マッドノームは一団体、大体5匹くらいでパーティーを組んでいる。使う技や術が未熟なため、名称にメイジやクレリックは付いていないのだが、機能的には同じように動いている様だ。というかさ、暗いから良く見えない、判別しにくいから名前が付いてないだけな気がする。ここが明るい場所だったらメイジマッドノームとかクレリクマッドノームとかになってたろ。


 あ。マッドノームは……ずんぐりむっくりの……うーん。なんていうか、二足歩行の汚いペンギン……というか……可愛くないモグラ? そんな魔物だ。何よりも無い様で在る目が怖い。


 前述のように名前は無い。魔術を使うモグラ、水の魔術で癒すモグラ、弓を射って来るモグラ。それ以外は前衛モグラである。


 厄介なのは全員、武器を装備しているということだ。剣道三倍段と言われるよう(本来の意味は違うんだけど)に、ケンカする場合、武器を手にした者は持たぬ者の三倍……いや、使い手が武器の特性を理解しているのなら五倍くらいは差が生まれる。


 さらに人型の魔物、さらに武器持ちは、当然、それを使いこなしている分だけ、賢い。パーティー単位で行動している時点で推して知るべし。


 二足歩行の生物は職業があったり、パーティを組んだりする傾向にあるのも厄介だよな。


 そんな敵を相手に、数はイマイチ感知仕切れない俺が、背後から突っ込んでゆく。


 低位置足元は、人間、魔物共通の弱点だ。低い位置を薙いだロングソードが、モグラの防具の無い膝下を寸断する。


 魔術増幅か、制御の能力があるであろう杖を持ったマッドノームの魔術使いが片足を失って横転する。すかさずに喉へ刃を突き立てた。面倒でも止めはキッチリと入れる。こちらの数が少ない乱戦での非常に重要な要素だ。コイツは術士だ。足を失って地に倒れても、術を発動出来るかもしれない。

 

「おら、その足元! まだ見えてないのか、そうか、いいね! ならば死ね!」


 一撃目で攻撃系の術士。二撃目で止め。三撃目で癒し系の術を使うであろう術士を仕留める。音を立てずに放った一撃目と違って、三撃目は思い切り、力一杯ロングソードを袈裟に振り下ろす。


 日本刀の袈裟斬りよりも、ロングソードの袈裟斬りは剣のバランス的に力が入る。本来重心はもっと柄の方にくるのだが、日本刀が存在する現代迷宮武器種としてのロングソードは、若干、刃側に傾く。


 つまり、えーと。力を入れて振り下ろすと、思っているよりも遠心力に引っ張られて、加速度が増す。技で斬る日本刀、力で斬るロングソード……なんて感じでいつの間にかハッキリ住み分けが出来ているワケが良く判る。


 まあ、でも、その辺の重心のバランスは剣種毎に取りそろえられていて、自分好みで選べる様になっている。初心者はできる限り柄側に。でないと、自分の足を切りつけてしまう事故が多くなるからだ。

 ちなみに俺のロングソードの重心は剣先寄り。本来はもっと先が重い方が面白いと思うのだが、これ以上はオーダーメイドになって値段がドガーンと上がってしまう。


ザシュッ!


 癒し系マッドノームは呆気なく斜めに斬り分けられた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る