0029:16才、ひと夏の思い出
足立の免許センターで学科試験に合格し、正式に免許が交付されたのは8/18。そこから、迷宮三昧、迷宮中心の生活を送っている。
今日は9/24。本当なら一カ月ちょいで強いの強くないの言うこと自体がおかしいのだ。だが。鮮明に残る自分の影が、足りない、足りないと叫び続けている。
あの頃ですら、さっぱり足りていなかったのに、それにすら届いてないもどかしさ。
迷宮内の懐かしい空気を吸い込む度に、焦燥が身を焦がす。
厨二病的な、ハードボイルド風味で思考してみたが、前向きに何かが変わることもなかった。笑。焦ったところでどうにも出来ないのはわかっているので、出来ることからやっていかないとなんだろうけど。うん。
ということで、このロングソードにさらに慣れるためにも指名依頼をこなしつつ、本来の自分の目標、先へ進む事にした。
現時点での俺の最高到達層は、第13階層。通称、地蔵洞窟の3階層めだ。無理をすればもっと深くまで潜れるのかもしれないが……ソロ活動は石に躓いても命を落とす。慎重に慎重を重ねて先へ進んでいた。
まあ、第25階層以降で出現する
タイマン限定とはいえ、自分の能力の限界を把握出来たのはよかったのだが。
巣鴨迷宮の第11階層から、15階層までは通称通り、洞窟が続く。そこそこ……体育館くらいの広さの「広間」と、それを繋ぐ「通路」で構成されている。
洞窟なので仕方ないのだが、何よりも、暗い。巣鴨迷宮は第10階層までフィールド系ばかりなのでショックを受ける人も多いようだ。ここで、ファッション探索者がスゴスゴと引き返すことになる。
そもそも巣鴨迷宮は女性を襲う魔物がいないため、女子向けと言われていた。さらに、浅い階層には、奪い合いになったりするレアアイテムを落とす魔物も少ないので、ギスギスとした金目当て、命がけな探索者も比較的いない。
なので浅い階層で女性が多いのは事実だ。まあ、女子探索者を差別するつもりは無いが、迷宮に安心を求める事自体が間違っている。そんなわけで、ほとんどが第11階層で探索を終了するようだ。
今回の非常事態で被害が大きくなったのもその辺が関係しているのかもしれない。ゴブリン、オーク等のいない、女子でも安心で冒険出来る迷宮。そんな巣鴨迷宮は、本格的な準備もままならない、ぬるめの探索者が多かったということなのだろう。実際、発表された死亡した探索者の八割が女性だったし。
……個人的に別に女性だからぬるいと思ってるわけじゃないよ? 本気で強い、実力的に敵わない女性探索者もたくさんいるし。
うーん。女性探索者、か。
夏休みだったのに、ちょっと前まではここで、そもそも探索者自体、そんなに見かけなかったし……ファッション系の探索者もいなかったんだけど。普段は気配はなかったしなぁ。俺が人のいない場所ばかり狙って行動してただけかな。そうか。
実は……まだあまり広まっていないが、探索者という仕事は……非常に男女平等だ。初心者ならともかく、中級者以上になれば、ほぼ性差というものが存在しない。それこそ、男は女よりも力が強い傾向にある……という人類の絶対的な事実も消し去ってしまう。
唯一の性差を感じるのは前述の様に繁殖に利用されるという点くらいか。その際、雄は栄養満点の保存食料として美味しくいただかれる。苗床にされた場合、ほとんどが精神的に壊れてしまうし、中から食い破られて死んでしまう。捕まった時点で死亡確定なんだから、それを避けてもどうにもこうにもなんだよなぁ。なんとなく、地上世界の一般の人はゴブリンをレイプ魔と同一視してるのかな? と。
それこそ、熟練の探索者で、力に特化した場合は男女差など非常に小さなものでしかない。男でも女でも自分の思うがまま、成長することが出来る。迷宮外で、女性が肉体的な実力が全ての職業を一生の技とすることは難しいのかもしれないが、迷宮ならいける。腹が立ったら性差無く力で解決する、殴り飛ばす。
……理不尽な暴力で支配されていた女性が探索者となり、DVを重ねていた父親と夫に迷宮内で復讐した……なんて小説が売れたし。
なので、ファッションなんちゃらとか関係なく、一発狙いのチンピラ系探索者よりも、毎日コツコツと潜っているおばちゃん探索者の方が能力は高くなっていたりする。あれだ、主婦のデイトレーダーが株市場のトレンドを決めるなんて時代があったのと一緒で、迷宮市場を支えているのは、主婦探索者っていう説は結構納得出来る。
基本的におばちゃんたちは戦闘=決闘なんてしないから対人戦の実力は分からないけど。
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