0028:教習所

 次の日。授業が午前中で終わり、昨日と同じ様に巣鴨迷宮へ向かった。


 昨日から指名依頼となってしまったので、さほど稼げていない。そもそも、ロングソードを新調したのは、さらに強くなるためだ。鍛錬が自分内ノルマに全く届いてないなー。迷宮に慣れる作業も足りていないし。


 実際、俺はまだまだ弱い。長年の鍛錬と、じいちゃんたちの稽古のおかげで外の世界ではそこそこな実力が付いていると思う。


 そこそこ? なんて言ったら失礼か。不意打ち、殺人、なんでもあり、生き抜くという闘いなら、日本全体で百位以内には入ってるんじゃないだろうか? 判らんけど。裏世界の実力者とか漫画っぽいが、決して表に出せない戦いの技はそれなりに覚えているし、使える。


 が、迷宮では、そんな強さはクソの役にも立たない。迷宮内なら、こないだは初見殺しで何とかなった「鬼斬」にもイロイロと手を尽くさなければ、あっさり力負けするハズだ。奴が同じ手を喰らうはずがないし。多分、こないだの薬も迷宮内では……ヤツのレベルだと耐性が高くて本来の効果が発揮されない気がする。


 まあ、探索者としての強さ、純粋に経験値、熟練度、さらに魔力のある世界への馴致訓練が足りないのだ。


 俺の誕生日は7/7。試験休み〜夏休み中盤を使って迷宮免許教習所に通い、10級免許を取得した。


 自動車普通免許の数十倍、数百倍難しいと言われている迷宮免許の取得のための教習授業は、コマ数……えーと、取得しないといけない実技単位は100存在する。一日に受けられる実技教習は最大4コマ=4時間のため、最短でも25日かかるのだ。しかもこれは、毎授業ごとに合否が存在する。教官に合格の判子をもらえなければ、何度も同じ段階の授業を再度受けることになる。


 ちなみに、実技授業の初回合格の確率は平均で3割を切る。特に武闘系の授業はかなりの経験者というか、黒帯や段持ちでも、初回で合格は難しいと言われている。まあ、何度も同じ授業を繰り返していれば、一般的な運動神経さえあれば合格は貰えるんだけど、その分追加でお金が掛かってしまう。

 車の教習と一緒で、学科単位も100あるが、一日の制限が無い上に、合否がない、授業を受ければ良いだけなので、こちらは実技に比べれば超楽ちんだった。


 俺の通ったKEIHOKU迷宮免許スクールの最短卒業記録を更新し、その後の学科試験も一発合格だったため、授業料と試験料が免除された。教習所から優秀生徒認定されたのだ。

 迷宮免許教習所の授業料は大体百万円。高校生にこの額は大きい。前納で納めてたので、貸してくれたじいちゃんに即返した。


 教官が言っていたが、そもそもこの教習所代が百万円というのは破格なんだそうだ。日本の探索者育成戦略の一端らしい。


 実際、真面目に運営している教習所には、支援助成金が受験者一人に付き二百万円以上入るらしい。合格者が出て、さらにその探索者が活躍すると、ボーナス的な補助金もあるという。

 探索者は日本にとって迷宮産業を支える大切な有資格労働者だ。更に死亡率も高い。なので大っぴらにはされていないが、政府としては助成金を大盤振る舞いしても、探索者数を増やし裾野を広げたいということだろう。


 その他に、試験料として三千円、免許取得時にはさらに十万円かかる。これも教習所が出してくれた。探索腕輪代なんだそうだ。この性能の魔道具として考えれば、破格値で、もしも普通に売れば、一億円は固い! と、これまた雑誌にかいてあった。


 うん、まあ、確かに、身分証明だけでなく、行動記録に、保存庫まで付いてるからなぁ。安いか。


 そもそも、迷宮での経験を探索者の身体にフィードバックしてくれるのがこの腕輪なのだ。簡単に言えば、腕輪をしないで迷宮に入り、魔物を倒しても、経験値は入手できない。


 腕輪がなければ経験値は入手出来ない。大事な事なので二回言いました。経験値を入手出来ない=成長できない。


 スキルや熟練度の測定方法が存在しないので詳細の確認はできない。が、迷宮で戦ううちに、魔力に身体が適応し、熟練度の項目が生えたり、経験値でレベルが上がり、成長していくのではないか? ……とゲーム的な表現、システムで認識されている。

 教習所なんかでも、こういう風に説明されるのは、それが一番理解が早いと判断されたからで……厳密に解析していくとちょっと違うかもしれない……なんて事も聞いた。今後、ステータスやパラメータ、スキルに関する魔道具なんかが新規開発されたら、「実はこういうことでした」とドンデン返しもあるかもなんだよね。


 教習所や探索者に成り立てのうちは、イロイロと迷い、試してみる事になる。特に魔術は、大元になる魔力が、迷宮で鍛えないと増加しない。なので探索者になって1年くらい経過すると、魔術の適正がないか、ギルドで講座を受けることになったりする。


 本当の探索者として、一人前として認められるのは、魔力を認知し、魔術適性の判定を踏まえた、自分の能力に合わせた役割を認識してからと言われている(これまたエクマガ談)。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る