0027:ゴブリン
統率されていないとはいえ。
ゴブリンは複数いれば高確率で連動して襲ってくる。
厄介な敵だ。ゴブリンを笑う者はゴブリンに泣く。雑魚だからと侮って、いきなり巣窟の洞窟に乗り込んだら……ゴブリンリーダーに統率されたゴブリンの盾にはばまれ、ゴブリンアーチャーの波状攻撃、さらにゴブリンメイジの魔術がドーン……そんな超定番の展開で全滅……なんていう話も珍しくない。
というか、教習所で必ず聞かされる逸話だ。免許配付前の注意喚起映像でも見せられた気がする。
実際、魔物の集団は危険だ。囲まれてしまえば、どんなに高ランクのパーティでも即ヤバくなる。
ちなみに。
それこそ、ウインドウルフは風属性の狼型の魔物で、一匹なら……五階層で登場するくらいの能力しかない。まあ、腕に自信のある探索者なら、二~三匹程度なら余裕で倒せるだろう。が。ヤツラは大抵、最低でも十匹、多くなると三十~五十匹で群れをなして襲いかかってくる。こうなるともう、別の魔物だ。
ウインドウルフの大きな群れに遭遇してしまったら。その階層に合わせたランクのパーティでは生き残れる可能性は非常に低い。運良く高ランクの探索者が通りかかってくれればどうにかなるかもしないが、大抵はあり得ない。
さて。そんな目の前の、ゴブリンの群れだが……ゴブリンナイトがいる……だけで、兵を率いているわけではない。まあ、確かにリーダーよりも強いとは言え、指揮個体じゃないからなぁ。
この後の展開を考えれば、殲滅するのがベストだと思うのだが……現時点で監視の目は潰せていない。ゴブリンナイトと通常のゴブリンが十匹程度。初手でミスらなければあれくらいの数なら別に倒せるだろうけど、俺の実力をこっそり覗き見る様なヤツラにお披露目しなくても良い気もする。
どうしようかな……詳細確認して情報は収集したから他へ行こうかな。まあでも「鬼斬」ほどじゃないしな……こっちにも武器はあるし。ああ、どこぞの暗部っぽいから、これまた暗部っぽく痺れさせるか……。
じわっと……ゴブリンを警戒するかのように周囲を迂回しながら、さりげなく薬を撒いていく。昨日と違ってごく微量だ。別に時間がかかってもいいしな。
自分の力量を知られたくないっていうのは探索者であれば誰もが思うことだし、それが何かの勝敗を決めることもある。決闘とかは特に、隠している実力がモノを言う。ちなみに決闘内容の非公開、公開は対戦者同士での話し合いで設定できるらしいので安心だね! 何が?
と。アレ? さっき撒いた薬が効いたようだ。迂闊にも直線的に接近してきていた。そりゃー引っかかるわ。三箇所でほぼ同時に小さい音が響いた。うん、バラバラに発覚すると、気付かれちゃうかもだからね。同時に倒れる感じで撒くのは結構難しい。しかも、結構距離を取って着いて来ていたから、俺はわざとかなりの距離を移動した。
この手の撒き薬系の道具は、団扇で煽ったり、風で吹き飛ばしたり、ちょい特殊なマスクなどの道具で比較的簡単に防御出来てしまう。どこぞの暗部かしらないが、まあ、その手の道具は当然、持っているだろう。ということで、これは初見殺しってヤツだ。っていうか、引っかかったということは……「鬼斬」関係じゃないのか? それとも報告が上がっていない? ワケが無いよな……。
一般的に、迷宮内では外の世界での兵器や武器が使えないというイメージが過大に一人歩きしている。日本でも迷宮攻略初期に情報が無い故に自衛隊が大胆に負け、それをメディアがとんでもなく過剰報道したからだ。
その後、世界各国が自衛隊以上の大敗北を重ね、さらに一般市民にまで大被害を及ぼす体たらくを晒すことで、やっと「当時の情報の無い状態での自衛隊の奮闘」がどれだけ異常だったか認知することになる。
日本で迷宮に関する様々な取り決めが「ギルド=東京都迷宮局」によって即行即断で判断、施行される現状を……国や関係省庁が甘んじて受け容れている最初の一歩がそれだ。
とはいえ。隠蔽するのもどうかと思うが、なんでも公開してなんでも知る権利……っていうのも間違っている気がする。だってその結果、マイナスに反応してしまうこともあると思うんだよね。
特に迷宮から産出される資源による市場は、過去の世界市場を席巻しつつある。スピード感がブルーオーシャンを入手するのは誰の目にも明らかだ。
一般人が知らなくて良いことは……残念ながらいくつも存在するんじゃないだろうか? 迷宮で寄生植物に乗っ取られてやられた初期の探索者の無惨な有様が、迷宮外で偶然撮影、生放送されたりして放送事故となり(食べ物を吐くとかだけでなく、実際お年寄りが数名、ショックで亡くなった)、今では一般的なメディアは迷宮関係の報道に慎重になっている。
アングラというか、一部のネットメディアは……重要情報に関しては当局の規制や摘発があるにも関わらず、異常に過激になってるけれど。
個人的に迷宮内での映像が撮影出来ない(カメラが作動しない)のは良かったんじゃ無いかと思う。ヤバイ映像……沢山あるしね。重篤な切り傷、千切れ傷の術での回復とか……結構グロイもんな。
ゴブリンやゴブリンナイト? と倒れた尾行者を放置し、さっさと、第三階層に降りた。尾行者を調べようかと思ったけど、どう見てもプロで、情報を引き出すのはクソ面倒くさそうだったので触るのはやめといた。
その日の調査では異変が起きていたのは、そこくらいだった。まあ、放課後~の探索だったのでゲート4からゲート2へ帰還。早々に報告を行って帰路に着いた。
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