0025:フェイズ4
巣鴨迷宮の大門をくぐり、出張所で情報を確認しようと思う。
昨日の喧噪は何処へやら。ガランとしている。掲示板には「事件多発。フェイズ4 警戒管理中」の文字が見える。
4か。指定探索者以外立ち入り禁止、侵入禁止令発動だったかな? このフェイズから、迷宮全体への指令となるハズだ。大ごとになってる。
迷宮は警戒管理中となると、迷宮局の許可、及び依頼を受けた探索者以外は中に入れなくなってしまう。純粋に本来この迷宮のメインである低級や実力不足の探索者は、追い返されることになるのだ。
仕方ない、帰るか、と受付の向こう側で仕事をしていたであろう……高階様と目が合う。御辞儀され、こちらへ、と、手で招かれる。
「あ、あの、きょう、は、む」
「お疲れ様です。赤荻様。本日ここにいらっしゃるということは、御助力いただけるということでしょうか?」
「え? あ、あれ、じ、じ、じぶは、じゅっじゆつきゅうでで、は、はい、おねぎあしま」
ああ! 思い切り噛んだ! 10級とはいえ、迷宮局にはログが渡っている。高階様は確か課長。係長よりも上の職員は探索者のログ開示閲覧権を所有している。なら、俺の本当の実力を知っていておかしくない。だって……よく考えなくても、10級の探索者はソルジャーオークでギリ……いや、無理か。パーティだって厳しいか。ソロで熊さん、
迷宮局の守秘義務は厳重で有名なので、そこは信じるしかないだろう。お漏らしさんに公開を拒否したのは、その辺のデータを一般の保険会社にログを漏らしたくないからだ。一般の会社、迷宮外だと個人情報は簡単に漏洩する。
「「優秀」な探索者さんは、常に足りておりません。現状、現時点で判っているのは、迷宮の大改編では無いということです。マップ自体が変更されているという情報は入ってきていません。ですが……」
「は、はいちが」
「ええ、新規魔物の確認、魔物の出現位置、配置位置がかなり入れ替わっているようです。それこそ、階層を超えて」
「ほ、ほか、に、あ、浅いとこに、強いの、が?」
「最高が……赤荻様からの報告にあった、3階層に出現した
それは……最近の日本の迷宮被害では結構大惨事だ。
「赤荻様には特別に指名依頼をお願いできればと思います。深層での調査は現在、うちの者とランクの高い探索者が調査中です。ですが、一度終了している浅層の再調査が……正直、人手が足りません。今回の件だと深層、浅層で危険度は早々変わらない気もしますが……」
フェイズ4で迷宮に入るのは、迷宮局からの指名依頼を受けなければならない。さっきのはそういうことだ。つまり、高階様は10級の俺を認めてくれたということになる。というか、10級に指名依頼……って、聞いたことないぞ。
まあ、とはいえ。ソロ探索者、しかも高校生の俺に、本格的な調査は依頼されなかった。当然か。高階様に依頼されたのは、低階層の洗い直しだ。
既に全マップを埋めるように探索を行っているのだが、それの漏らしが無いかの再チェックだという。さすが、優秀。こういうのは念には念を入れるのが大事だからね。あと、迷宮のシステムは時間経過も関係している場合があるから、再度調べることで、今回の事件の手がかりが少しでも掴めればいいわけで。
男子更衣室に入り、保存庫から装備を取り出して着替えをする。この腕輪の最大の能力、保存庫は中に入ってるアイテムを任意の場所に展開することが可能だ。集中して行えば、今みたいに、一瞬で変身、着替えをした様に見える。それこそ、誰かから見られていても問題無い、瞬きの一瞬のレベルで。
昔実験で高解像度カメラを使用して撮影してコマ送りしてみたらしいが、いきなり装備が変更され、下着などは写ってなかったそうだ。
なので別に更衣室に入る必要は全く無い。それこそ、さっきの高階様の目の前で差し替えても良かったのだ。でもね。うん。新人探索者的にはなんとなく「恥ずかしい」気がするんだよね。慣れるまではコソコソする感じだろうなぁ。
いつも通り、学校鞄やスマホ何かをロッカーに仕舞う。
出張所には男女別の更衣室兼ロッカールームが用意されている。新人のうちは、腕輪の保存庫から取り出した装備に、手動でここで普通に着替える。この保存庫、容量は魔力に比例するので、最初のうちはほとんど装備を収納出来ない者もいる。その場合は、残りの荷物はロッカーに預けるのだ。
迷宮発生以来、世界中で武器の携帯が普通になりつつある。当然日本も、改正された銃砲刀剣類所持等取締法によって、以前よりも緩いルールで持ち歩きは可能だ。が。刀剣類であれば認可されたケースに納める。移動中に抜いてしまえば即犯罪行為とみなされるし、拳銃等の銃火器の携帯は昔と変わらず許されていない。
つまり。基本的に武器防具は腕輪の保存庫か、ギルド出張所のロッカーに預ける。
新人探索者が二つの迷宮を同時攻略なんて場合は、認可ケースに入れて持ち歩くしかない。そのケースは高いし、手続きも面倒くさい。それなりに鍛えて、武器を腕輪に収められるようになるまで、初心者は一つの迷宮で活動する場合が多くなるのはそのためだ。
保存庫等の腕輪の主機能は魔力の存在する迷宮でしか起動出来ないので移動中に「外」で取り出すことは出来ないしね。
この辺が探索者に「ホーム」という感覚を強く植え付ける要因だと思っている。
池袋迷宮で育った探索者は池袋のシンパになる。世界で活躍し始めても「帰って来る」って良く聞くし。そのため、迷宮毎にそこをホームにしている探索者が存在すると言って良いだろう。
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