0024:謝意
「は、はあ」
「と、とりあえず、判りやすくお金を提示して説明しましたが、まずは、何よりも御礼が言いたくて」
「そ、それは、こないだも」
「御礼は結構と言われました」
「……な、なら、すすいす、すいません、れ、礼は受けます」
「はい、助けてくださってありがとうございました」
「は、はい、で、では」
もういいや。もう。というか、どうでもいいというか、さっさと迷宮行こう……。
と、立ち去ろうとすると。
「ああ! ああ! ああああああ! そんな、待って下さい、ちょっと、もう! なんですか! なんなんです」
手首を握られてしまった。
ああ……に、握られてる。手首を。それはちょっと、あの、ドキドキしてしまうのです、あの、いやーダメですって、なんていうか、ああ、逃げませんから、逃げませんから。
「に、に、逃げませ、から、あ、あ、てをて、はな……」
「あ、す、すす、すいません」
ふう……心の平安が。安定しないよ! なんなんだよ! もう。御礼はちゃんとしてもらったよ。いいよ。さっきのだけで。これ以上は絶対面倒になる。多分、彼氏がパーティメンバーと組んで俺に喧嘩売ってきたのも知らなそうだ。それに……他の女のメンバーはなんか、俺のこと睨んでたし。
「あの、ですから、うちのパーティが貴方に助けられた謝礼を……それに、失礼のお詫びも」
「い、いい、いいです、いり、せん」
「そんな、いえでも」
「ロ、
「はい、いません」
「な、なので、あ、あなしか、お、おれのす、すが、すがたはみ、みて、ない」
「はい、でも、貴方の
「きよ、きょひ、し、しま」
「な、何故ですか!」
「そ、それ、しゃれ、え、のいらない、り、りりり、りゆ、うで」
「え、でも、そんな……え? どうして?」
「じ、じぶ、は、ろろろおぐをて、ていじしな、かわ、りに、しゃれ、えいをうけと、うけ、とない」
「なんで、そんなに……」
「こ、こちのじ、じじょ、じょうで。では」
今度こそ。腕を掴まれることもなく、進路指導室から脱出に成功した。
よかった。なんだよ、なんで掴まれないといけないんだよ。ドキドキしちゃうだろ! くそう。困っちゃうんだからな! あ。周辺警戒もしてなかった……うっかりだ。くそう。
お漏らしさん……というか、あの女……えーと。名前名乗ってないじゃん。アイツ。何者なんだ? というか、どういう経路で俺のコトがバレた? おかしく無いか? 探索者の情報は基本機密扱いだ。迷宮局からバレることは無いハズだ。
それに、俺がまともに会話が出来ないのも判ってたみたいだ。
そもそも、なんでここに入れる? って、信田先生の元教え子ってことは……先輩か。先輩? だからって母校にやって来て、いきなり、生徒を指導室に連れて行けるっておかしく無いか? 判らないな。
ま、でも、いいか。もう、付きまとったりしないだろ。こちとら高校生でもいろいろとあるんだよ。正直、今回の件が大きくなってしまうと、今後の活動に支障がでる。
ないとは思うけど……「大学生、高校生に救われる!」なんて週刊誌辺りに面白おかしく取りあげられたりとか。探索者が稼げる! とか人気職業になってるのもあって、悪目立ちしてるからか、そういう……煽りみたいな中身の無い記事多いしな。最近。で、そうなると家に取材とかの連絡が来て、じいちゃん、ばあちゃんがそれにかかずらっているのを想像するだけでも腹が立ってくるし。
それに、あの
と、考えながら校門を出ると。
「ちっ」
ウザいのがいる。……広範囲気配察知の感覚に複数の反応が引っかかってる。お漏らしさんといい、「鬼斬」といい……これといい……今週は本当についてない。ガッカリ。
この距離の取り方はプロだな~。というか、どういうことだ? 昨日の……お漏らし彼氏の軽装重装ペア関係……じゃない。アイツらは本気の素人だ。
なら「鬼斬」関係……なら、迷宮局討伐部絡みだから、どちらかといえば、こんな露骨な尾行や追跡はしない。だって俺が迷宮に行くから。ヤツラは迷宮で
と。いうことは。なんだ? これまでとは別件か? うーん。
それともなに? その辺と関係ない新規さんか? お漏らしさん……あれ、大金持ちだとして。それを狙う別グループとか? 何か厄介な案件に巻き込まれたりとか?
というか、一介の高校生初心者探索者である俺の行動から何を知りたいんだ? 尾行まで付けて追わせるっていうのは尋常じゃ無いんだけど。怨まれたり……は無いと思いたいなぁ。探索者になって、人助けとかも昨日が初だし。
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