0021:私立京北大学付属高等学校

 次の日。


 いつも通り学校に向かう。放課後は元々の予定通り、巣鴨迷宮へ向かうつもりだ。昨日の今日で……潜れないとは思うけど何か情報は入手出来るだろう。異変の現状は気になるしな。


 というか、まずは昨日の顛末が知りたい。


 予想では重装軽装コンビは病院行きでしばらく再起不能だろうし、「鬼斬」真藤は……うーん。あんな無様に「おやすみなさい」して格下にまんまと逃げられちゃった「くだらない戦い」。普通に公言出来ないだろう。

 あの2人は結構重傷なのに、朝のニュースで取りあげられていなかったということは迷宮局ギルドによって内々で処理された可能性は高い。


 まあ、どんな状況になっているのか確認しとかないと。一切知らんぷりな気もするが。


 あの戦闘中毒患者キ○チガイバトルジャンキーは何らかの処分、最低限始末書、減俸くらいはあるし、しばらくは監視も着くだろうから、今日明日で仕掛けては来ない……ハズ。そもそも緊急事態フェイズ3発令中で迷宮内で要警戒任務だったんだから、命令違反で懲罰でもおかしくないでしょ。怪しいヤツがいたから……っていう言い訳が何処まで通用するんだろう。


 次は、とことんやろうとか思ってるだろうなぁ。俺が絶対に逃げられない状況で、隠れてこっそり仕掛けてくるハズだ。判りやすく「迷宮」で、だろう。あっちならお互いに全力で、しかも言い訳出来ない戦いが可能だからな。

 

 さて。

 

 俺の通う私立京北大学付属高等学校は名前の通り、東の名門、京北大学へのエスカレーター進学が可能だ。それだけでも昔から高校入試の倍率はかなりスゴイことになっていて、難関校として名を馳せている。


 なのに、ここ十数年、京北大学は日本最高学府、東大京大よりも「実用的」「就職率ナンバーワン」「世界的な地位を確立可能」などと、クソほどもてはやされている。


 それはひとえに他大に先駆けて設立された日本初の迷宮学部のせいだ。探索科と研究科に分かれている。

 探索科はまあ、体育大的な基礎身体能力強化や、論理的な探索活動、最新の迷宮資源についての情報共有なんていう実践的な科だ。卒業時に探索者免許を取得出来るだけでなく、京北大出身の探索者はランキング上位者が多く、実力も保証されており、大手企業からのスカウトなども引く手あまたとなっているらしい。

 研究科は……文字通り、迷宮の研究を行っている。世界的に名を馳せているのはここだ。現状日本の迷宮研究の最先端と言われており、発表される論文、新規マテリアルは常に「常識を覆す」レベルで世界的にも多大な注目を集めている。一月に一回のネットで行われる定期情報提示の「京北迷宮ニュース」は魔物の法則に対する発表で注目されたばかりだ。


 そのため、現在は偏差値計測不能。日本で最難関大学となっている。そんな大学にエスカレーターで入学出来るのだから、当高の倍率もうなぎ登りである。

 その上、入試時の点だけでなく、普通に通うには私立独特の高額な施設設備費に加えて、なかなかな寄付金も必要となってくる。


 知力と経済力。両方必要って言うのはどうしてもハードルが高くなるよなぁ。


 俺がこの学校が良いなと思ったのは……まず、距離。自宅から階段を降りて庭を抜ければすぐに学校の裏門に辿り着くのだ。主にうちの家くらいしか利用価値の無い、避難経路みたいな裏門と私道なのだが、専用通路みたいでカッコイイ……。厨二。

 学生証がカードキーになってるのもなんとなくバッチリ。まあ、近所っていうのは大きな存在で、幼い頃から将来はこの学校に行くと決めていた気もする。


 次に単位制度。うちは、高校から大学まで一貫した単位制を導入しており、担当教師、教授の定めた課題で合格点を出し単位獲得してしまえば、その他の時間何をしていても自由という緩い校風だ。

 当然、大学生よりも高校生の方が必修単位は多く、高校生としての学級活動なども多めになっている。が、それでも、「ここまで時間的に自由な」授業方法を採用しているのは、受験期に調べた限りこの学校のみだった。


 最後に決定的だったのは。探索者免許を取得すると挑戦できる単位が存在し、そして、大学の学部研究室に協力することで授業料が免除されていき、さらには貢献度によっては奨学金として報奨金まで得られることだった。探索者優遇制度とでも言えばいいだろうか?

 つまり、入学時には入学金や、寄付金がかかるが、探索者になってうちの大学関係からの依頼をこなすことで「取り返せる」という事だ。


 但し。この制度は基本大学生のための制度で、高校生が……というのは想定されておらず、申請自体が初めてだったらしい。まあ、そりゃそうか。高校生の探索者はいないワケじゃないが少ない(実技試験で体力、技量、お金的に受からない事も多い)し、高校側も探索者稼業をバイト的にお薦めしているかのようで、外聞的に良くない。


 迷宮産業、探索者というのは以前に比べてイメージアップしているとはいうモノの、未だ命を落とす可能性も平均すると非常に高い。それに奨学金を出しちゃうぞっていうのは、まあ……うん。なんとなくお薦めできないのは判る。


 その辺のコトは京北の理事長とじいちゃんが知り合いということで、活動自体を基本隠蔽する方向で特例を認めてもらった。余り目立っちゃダメ……というか、高校生探索者なんて活躍しようが無いんだから、普通目立たないよね。うん。


 と、まあ、探索者を目指す俺としてはこの学校しかない! と即断できる要素山盛りだった。そりゃもう、凄まじい勢いで勉強しましたとも。元々成績は悪くなかったし、中学校の授業態度も良かったのもあって、なんとか合格にこぎ着けたのだ。良かった。


 ちゅーか、学校の敷地を含めた周辺の土地一帯も昔はじいちゃんの家のモノだったらしい。知り合いなので安く売ったとのこと。もの凄い強大なお隣さん感覚。元々、とんでもない地主だったじいちゃんの御先祖様に感謝ってことで。




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