0019:大分岐点

──世界の価値観が変わったポイント、BC、AC以来の歴史の大分岐点……とも言われる十三年前の事件と共に訪れた次世代の時流は、生活全般を変化させてしまいました。


「ええ、特に武器は……分かりやすいですね。銃火器以外の個人携行武器を複雑に再進化、再開発させましたから」


──様々な新素材が発見されました。


「素材と生産方法、鍛造と鋳造に加え、魔力合成等の革新的な新しい金属加工方法。ファンタジー世界の産物でしかなかったミスリル鉱、アダマンタイト鉱、さらに魔物が討伐時に落とす数多のレア素材。金属だけでなくモノの硬度の概念、仕組み自体が「新発見が常態化」されてしまいましたからね」


──探索者による大航海時代、新素材発見が世界的なブームになっているかと。


「脆いのに粘るとか、固いが百回で砕けるなど、金属だけでなく、新素材が数多く実用化され、マテリアル業界は未だに、数カ月毎に取り扱い素材一覧のジャンルを含めた枠組み自体を書き換え続けていますから。既に驚くことを諦めたかの様な、革新。この時代に直面している我々研究者、職人は……幸せなのでしょうか?」


──今もまだ、それが続いていると。


「そうですね。頻度こそ下がりましたが……世界の片隅……どこかの迷宮で、とんでもない素材が発見されるかもしれない。それは地道に頑張ってきた者をあざ笑うかのようで」


──……そうですね。確かに自分がそちらの立場であれば……笑い事では済まないと思います。


「ですが。何よりもそれを一番求めているのは実際に装備を使う探索者たちです。高額であっても、命と引き換えには出来ないため、とにかく使える優秀な武器防具を求めている。そして、我々は結果で、要求に応えることが優先となっています。職人の腕が最も重要な価値となり……職人気質、物作りに対するこだわりに関しては一家言持っている我らが日本、そして日本人はこだわざるを得ない。多くの工房が気炎を上げ続けて、今では世界で扱われる迷宮装備の約八割は日本製というのが現状です。特に近接武器の進化は……有り得ないレベルと言って良いでしょう。過去の武器群に外観が似ていても、全くの別物ですね」


──迷宮学界の先駆者、「記録者」にして私立京北大学迷宮学部副学長、専任教授、逢坂今日子氏に聞く、最新迷宮市場! より


 ……なんてインタビューを、今月のエクスプローラーズマガジンで読んだな。


 探索者が迷宮で新素材発見、それを研究者や職人が切磋琢磨して、新しい武器防具を産み出す。さらにそれを探索者が使って……という循環。それだけなら当り前の経済活動だけど、当然、それに付随して「副産物」がその循環から外れてどれほど社会に浸透していくかなわけで。


 日本は世界で唯一、迷宮を受け容れ、大氾濫を収め、システム作りを行っているからなぁ。他国は未だに迷宮を制圧しようと必死だもんな……軍主導で。

 いくら新素材が発見されても、一般的な生活を行う「日常」がついてこなければ意味ないもんな。迷宮による戒厳令下では荒廃一直線であり、副産物で大儲け! なんて考えられないし。


 そんな新しい社会構造を産み出すに至っている日本では、近接武器を持ち、正面切って戦うというのが当り前の流れのまま……一騎打ちや決闘などが、いつの間にか探索者の間で行われている様になっている。


 そんな馬鹿な……だけどね。当然、非公式だ。


 今、襲いかかって来ているアレな人は迷宮内外で事情が大きく異なる事を、わざと忘れた、気にしない無視するタイプのお馬鹿さんだろう。


 迷宮の中ならある程度ムチャをしても回復アイテムがあれば、さらに光属性の術があれば、かなりのムチャも回復できる。高ランクの使い手がいれば、腕を落とされても、すぐであれば問題無くくっつき、修復されてしまうしね。


 実際、初期にはこの手の私闘、決闘、喧嘩を禁止していた政府側も、迷宮内では警察等の治安機関の介入が間に合わず、どうしても、もめ事は無くならないという現実に、現在では逆に死人が発生しなければ黙認という方向に傾いている。


 迷宮内各階層に交番システムを構築し、セーフゾーンを建設しようとしたこともあった様だ。が、人類が建造物を建て維持出来るのは第1階層の大門近辺のみ。


 科学文明と同じく、第2階層以降でプレハブとかの建物を立てても、建築から時間が経過すると、原因不明の崩壊が生じ、全て飲み込まれてしまったという。

 それはまるで異物を認めない、生物組織の様だったと生存者は語った……ってコレもエクマガで読んだ。


 その戦いにはどちらに正当性が存在するか? については探索者腕輪の過去ログに頼らざるを得ないのが問題視されているし、後付けだけど現状では、ある程度の倫理を確立していると思う。


 魔物を利用した犯罪行為、偶然を装った略奪など、抜け道はあるけどね。


 ただ、「人質を取って決闘を了解させる」なんて大規模な犯罪行為の場合、迷宮内だけで完結させるのは非常に難しい。そうなると地上での警察の捜査に、迷宮での行為を関連付けて、基本的な人権を守ることになる。


 迷宮という無法地帯を産み出さない努力、法の改正などで対応しているスピード感。これを維持できているのは現状、世界で日本社会のみ……じゃないかなと思う。


 迷宮局ではさらに、高ランクの探索者同士のバトルを興行として「迷宮外」で行い、それでお金を稼ごうと企画すら噂されてるし。余裕だよね。世界に比べて。


「ちゃんとこっち向けやぁっ!」


 忘れてないよ。上の空だけど、ちゃんと避けてるじゃん。


 まあ、隙があるのに攻撃してこないっていうのはすぐ分かるからね。このレベルになれば。おちょくられているようで腹立たしいんだろうね。その気持ちは判らないでも無い。というか、その辺ちゃんと理解した上でやってるからさ。俺も。




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