0017:罰当たり

ガス


 振り切った黒い特殊警棒……いや、アレはもう、刃が付いて無いとはいえ模造刀レベルだな。金属製の木刀。略して伸び縮みする金属木刀? 重さとか調節されて、刃はないから、必要以上に斬れない様になってる……んだろう。


 金属製とはいえ、木刀と似たような形状の棒で、墓石が斬れるとは思わないよね。うん。俺も。思わない。何だそれ。バカだろ、こいつ。


 墓石の角が……綺麗に欠けて無くなっている。罰当たりだなぁ。


「鬼斬」真藤の二つ名、さらに喧嘩屋っていうのも伊達じゃ無かったみたいだ。まあ、威圧感とかはね。知ってたよ。巣鴨迷宮に巡回で来てた時にね。漏れてたからね。でも太刀筋を見たわけじゃないからさ。うん、予想以上だ。


 身長は180センチ弱くらいで巨漢と言えるほどじゃない。その分小回りは効きそうだ。


 浅い右袈裟、跳ね上げて左袈裟斬り上げ、そしてそのまま戻しモーションキャンセルしたかの様な突き。


 おいおい!


 思い切り殺しに来てるじゃねぇか! 最初から。様子見ろよ! 様子。擦っただけで、普通にそのまま即死コースだぞ、即死。


「こいつらを仕留めた所は見たからな」


 ああ、そういうことか。


 疑問をあっさり解消、ありがとう。そうね。これくらいしても死なないっていうのは判断済みってことね。それはそっちだけじゃんかよ。俺は! いや、それにしたって。バカかっ!


 横胴薙ぎから、手首を返しての斜め斬り上げ、ってさらに首薙ぎか! 首というか、目の辺りに当たれば良いと思って振るったな? もうさ、全部急所狙いで致命傷からの殺しに来てるジャンよ!


 だから嫌なんだよ。戦闘中毒患者キ○チガイバトルジャンキーの相手は。


 ああ、ムカつくなぁ。というか、こんな面倒くさいことになって……自分自身にムカツクわ。演技でいいんだから、ちゃんと反応しとけば良かったなぁ。もうちょっと考えないとだろ。俺。


 そもそも、人助けとはいえ、お漏らしに姿を確認されちゃってるとこがな。ダメだよな。


 自分は何をしたいんだか。中途半端なんだろうな。うん。ただ単に死にそうな探索者を助けたかった。のかな? 偉いねぇとか、スゴイねぇとか言われたかったのかな? 探索者なんて面倒くさい仕事だって知ってるのに。目立って良いこと少ないのに。


 で。手段、過程として考えるのなら、ソロで探索してる自分は、あらゆる意味で常にリスクが高いんだから、安易に人助けなんてしちゃダメなんだよな。多分。


 だってあの時、黒毛狂熊マッドベアが追加で四匹、五匹出現していたら。ぶっちゃけ結構所か、本気でヤバかっただろうし。戦闘中に使える広域感知能力とか「今はまだ」無い訳だから、あそこが常に安全かどうかも良く判らなかったし。


 というか、俺の気配察知能力ってなんで、基本単体の、しかもほんの僅かの先読みにしか使えないんだろうか? 複数の敵を相手にすると、情報量が格段に減る。緊張するからなのかな? 修行が足らんなまだまだ。


「てめぇ……何か違うこと考えてやがるな?」


 あ! バレた。うわ……激おこぷんぷん丸か。って激おこぷんぷん丸って本気で死語で、じいちゃんちょい前世代って言ってたな。まあ、いいか。父親譲りだ。さらに迷宮関係の動画をサーチしていると、何故かそういう死語も覚えちゃんだよなぁ。


 って「鬼斬」は青筋ビンビンでもう沸騰間違いなしパターンに入ってる! リーチじゃ無くて、確定だ。仕事とか人生とか、全部いい加減ポイのに、なんでそんなに戦闘にマジメなんだよ。いいじゃんかよ。余計な事を考えてても。相手してやってるんだから。


 凄まじい勢いで金属木刀が空気を斬り裂く。唸りを上げる。踏み込みも……深い。さっきまでの素人二人に比べて、あからさまに玄人の動き。というか、魔物だけじゃなくて……多分、普通に人も殺してるよね。この人。ちゅうちょの無さが半端ない。一撃喰らっただけで致命傷間違いなしだろう。「鬼斬」の二つ名は伊達じゃないか~。


 というかさ、言動とかその行いから喧嘩屋とか言われてるけど……この人、得物の持ち方が完全に正統派じゃん。幼少時から剣道で鍛え続けて居合に移行した正統派でしょ、絶対。構えや足さばき、そして動き、振り筋からもあきらか。


 警察の特練員……いや、武道小隊、その上の武専、武道専科クラスか。


 明らかに、荒れた地面での足の捌方が上手い。さっき酷いのの見本を見せられたばかりだからか、格別だ。すり足と、踏み込みをこまめに切り替えて繰り返す。一定の法則性をなくしていること自体が法則だと考えて、対応していくしかない。


 特練員は剣道とか柔道とか特化だから……機動隊武道小隊で居合を……さらに、一刀流とか本身刀を使った他流派を学んだ感じか。


「け、警察、も、元、元、き、機動隊員が市民を、お、襲うのは……ち、ちょっと……」


「ちぃ。それもお見通しかよ……というか、元々知ってたんじゃ無くて俺の剣筋から読み取った……か? それよりも、俺の刃をここまで避ける市民がいるかよ!」



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