0007:ギルド出張所
地上出口には大門と、地下第1階層入口にはギルド出張所がある。そこを通らずに迷宮から出る事は不可能で、探索者は全員、出張所→大門を通過して帰途につく。
迷宮階層間に存在するゲート。これは階層毎に存在する。ゲートからゲートへの移動が可能で、次の階層への移動だけでなく、一度行った階層まで跳べるし、戻ってこれる。脅威の瞬間移動システムだが、大門と同じくその原理や構造は一切謎のまま……だそうだ。研究は続けてられている。
さらに、このゲード移動システムは探索者腕輪に付随するものではなく、元々迷宮に備わっているシステムだそうだ。ゲートと呼ばれる板状のオブジェ(モノリス)に触れると次に行きたい階層が思い浮かぶ……ってなんか、やっぱり、ムチャだよな。不思議ファンタジー。
と、いうことで、俺は、3階層と4階層の間のゲート4(1階層と2階層のゲートをゲート2と呼ぶので、3階層手前がゲート3。4階層手前がゲート4となる)から、ゲート1へジャンプして、そこから徒歩で第1階層出口の出張所まで戻って来た。
現在時刻は午後18時ちょい。平日火曜日。初心者向けである巣鴨迷宮は、一般的な「稼ぎ」の探索者が少ない。近場に池袋迷宮が在るし、都営地下鉄沿いの小石川、新板橋、志村も近い。平日に潜るのは、ほとんどが職業探索者なだけに、時給の高い稼げる迷宮が人気になるのは当たり前だ。
つまり、過疎ってるからこその、ここでの試し斬りだったのだ。
その瞬間に人がいなくても、階層ごとに万遍なく稼げる池袋迷宮でそんなことはしない。いつの間にか目撃者がいて、無駄にザコ狩りしていた……なんて因縁付けられたり、ネットで晒されたり、イヤな気分にさせられるのは勘弁だ。
と、まあ、高齢者の原宿と呼ばれたかつての巣鴨商店街。国道挟んで逆側に位置する巣鴨迷宮大門を入ってすぐのギルド出張所はいつもと違う雰囲気が充満していた。
「探索者のみなさん、お疲れ様です。現在、緊急事態フェイズ3が発動されています。この迷宮にいる全探索者は行動規制が命ぜられています。係員がパーティ毎、順番にお話を伺います。帰還順にお話しを聞いております。ご了承下さい。探索者のみなさん、お疲れ様で……」
人工音声が緊急事態を繰り返している。目の前に吊されている大型の液晶モニターに点滅表示されている緊急事態フェイズ3という文字。これはそれなりに大事だったハズだ。
地震の震度とか規模に近いか。フェイズ3は関係者である探索者に影響大の事象。フェイズ4は探索者への依頼が任務に変化する可能性があり、フェイズ5で緊急動員有り、フェイズ6が全探索者緊急召集動員準備。
フェイズ7が最高値で、大氾濫……迷宮から魔物が溢れて迷宮周辺で暴れ始めるケース。だったかな? これはもう、十年に一度とかそういうレベル。
迷宮最先端国である日本では、世界最初の大氾濫である夢の島迷宮の大氾濫事件と、数件の未認定迷宮による氾濫くらいで大きな被害は食い止められている。大氾濫があっても当局の活躍により、一般人に大被害の出る前に治めているから、どうにかなってると言っていいんだろう。
迷宮整備法などの制定などが遅れたり、様々なケースで余力がなかったりした諸外国、特に発展途上国では死者数万人の大氾濫に拡大……といったケースも珍しくない。毎日のようにニュースになっている。日本は同盟国にできる限りの支援を行っているが、人手不足は明らかで、被害は増加の一途を辿っている。
実際、現在では、戦争や内戦などで死ぬ人の数よりも、迷宮大氾濫によって死ぬ人の数の方が多いのでは無いか? と言われ始めている。
ああ、迷宮が日本から広まった、日本の侵略行為だ、責任を取れと、騒ぐ周辺国もあるが、基本全てを若干の経済援助という武器で封殺している。過去の日本と違い、最近は「そんなこと言うならもう、やらねーぞ?」と強気だ。
そもそも、近年では、日本は探索者という強大な軍事力を抱えている。探索者本来の能力は迷宮内でしか発揮出来ない。が。迷宮外であっても、底上げされた能力は、されていない者からすれば、脅威にしかならない。
さらに……何よりも、現状、世界中の多くの国が日本からの人材支援がなければ、大氾濫は治まらない。放置しておけば、国民が死に続けるのだ。
あれ? 何の話だったか。……えと、そんなわけで? 東京都迷宮局巣鴨迷宮出張所、通称巣鴨ギルドは、これまで見たことのない人数でごった返していた。
ちなみに、ギルド、とは正式には東京都迷宮局のことを指す。
探索者をまとめる役所、探索者ギルド、ということからそう呼ばれている。
なのでその巣鴨出張所は巣鴨ギルドとなる……わけだ。だが、その辺は非常に適当だ。普通に「ギルド行かないと~」と言って、迷宮局の本局へ行くヤツはそういない。大抵が自分が良く通う出張所のこと言ってるハズだ。ギルド出張所、巣鴨ギルド、ギルド。どれも、迷宮の入口にあるこの「関所」を指している。
しかし、かなりの混雑っぷりだ。え? この迷宮に、こんなに人がいたの? っていう。まあ、いるか。普段は分散しているからな。閑散としているイメージしかないけど。
腐ってもB級だしな。最高到達層は35とそれほど深くはないけど、出現する魔物、取得出来るアイテムのバリエーションは比較的多い。あくまで、時流的に稼げない、美味しくないというだけだ。
で……一気に気分が悪くなる。人混みは……苦手だ。
まあでも仕方ない。多分、俺の感じた前兆的な、違和感、イレギュラーは迷宮各層各所で起こっているのだと思う。
今現在……帰還退出予定を過ぎて、ここに戻っていない探索者が居れば……緊急事態だ。負傷による遭難も大いに有り得るし、既に死亡という可能性も大いに有り得る。フェイズを無視して、大門を通るのは不可能だし、もめるのも面倒くさい。
素直に、発券機から番号の紙をちぎり、人でいっぱいの待合室のベンチに向かう。
まあ、人が多くてベンチも埋まっている……のだが、ここにいるほぼ全ての探索者はパーティを組んでいる。最大6名、大抵4~6。いや、平日だからパーティ内で参加出来る者だけが来ている3人組なんていうのも多いようだ。
そういうグループで場所を確保し始めると、確実に隅の方に隙間、開いているベンチが発生する。そこに腰掛けた。
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