16歳からの迷宮探索には「国家資格：迷宮探索及び魔物討伐、武器等所持限定使用許可証：通称、迷宮免許」が必要です ※全面改稿版

0005：異常

　でと。

　お漏らしした当人は……うーん。身長普通？　黒髪でストレートロング、顔は……よくわからない、さらに普通？　いや、カワイイのかな？　俺のよく知っているアイドルとかグラビアの女子に比べるといまいちだと思うけど……正直一般女性に対する経験値の低い俺には良く判らない。

　とりあえず、彼女は顔を真っ赤にして、とりみだしてパニック状態……というか、どうすればいいのか判らなくなっているみたいだ。俺よりも。

　まあ、この年齢になってのお漏らしはどう対処すればいいか判らないよな。

「う、うでわに、き、きが、きがえとか」

　なんとか。なんとか振り絞って出てきたのが上のセリフだ……。情けない。実に情けない。心の中はこんなにおしゃべりなのに！　なんで、言えないのか。なんで、焦るのか。なんで、オドオドしてしまうのか。

　目の前のお漏らし娘を馬鹿に出来ないどころか、別に平常心で問題無い状況の俺がこんなっていうのは……どうなんだ。ちくしょう。

　当り前だが、これは学校でも変わらない。なので、彼女とか異性の友だちどころか……同性の普通の友だちもいない。他人の顔を見ること自体がツラいのだ。泣けてくる。まあ、変に浮いてるので友だちが居ないのは仕方ないんだけどね。うん、仕方ない仕方ない。

　お漏らし（あだ名決定）は俺のアドバイスで何かに気がついたように、周りをキョロキョロし始めた。俺はきょどりながら大きな岩の影を見ながら頷いた。

「は、はい……あ、ローブの色が、外見の魔道具が……」

　慌てて、岩陰に移動していく。まあ、これくらいの距離なら魔物が現れてもどうにかなるし、この階層であんな大物が暴れちゃったら、しばらく本来この階層にいる弱い魔物は近づいてこないだろう。

　今、お漏らし、「外見の魔道具」って言ったか？　言った。あれかな、外見偽装の魔道具かな？　って、そんなんで偽装してたのか。まあ、そりゃ見せびらかして着てたらさすがにヤバイもんな。というか、どんだけ金持ちなんだ？

「あ、あああ」

　変な声を呻きながら、ナイギの重装フル男が腕を突っ張って上半身を起こそうとしている。パッと見て、倒れてる３人に外傷は見当たらない。ちょい打撲とか捻挫とかあるかもだけど、切られたり血が出たりしてはいない。

　で。周りに……黒毛狂熊（マッドベア）クラスは……いないよな。うん。ならいいか。もう。

　既にヤツの巨体は迷宮に飲まれ消えている。倒れていた場所に残る五百円玉位の大きさの黒い石。魔石だ。残念、その他のドロップアイテムは無いようだ。当然、倒した俺に所有権はある。それを拾い、さっさと立ち去る事にした。

　ここにいて、イロイロ言われて……礼ならともかく、魔石を横取りされたりしたらガッカリ過ぎる。お漏らしが戻ってくる前に……さっさとその場を離れる。

　とりあえず、俺は本来の目的であるロングソードの慣らしのために、４階層、地蔵の杜に向かうことにした。

　３階層と大きく違い、鬱蒼とした森が広がっている。本当は3階層の狩り場に向かっていたのだが、クマさんのせい？　で魔物が移動しまくったので、配置がハッキリしている場所に変更したのだ。

　この森に出現するストローパペットは、その名の通り、巻き藁に手足が生えた様な形状をしている。形が藁に似ているだけで、系統的にはウッドゴーレムの亜種では無いかと言われ、とにかくすぐに大繁殖するので大量に斬っても誰にも文句を言われない。

　さらに装甲強度も低く、それなりに鍛えた探索者なら、一刀両断可能だ。ヤツを斬った感触、切断感が堪らないと、試し切りなどで狩りをする者も多い。

　杜に入って三十分程度。お目当ては見つかった。

　が。ストローパペット五体の奥に、これまたここに居ちゃいけないヤツが見える。

　薄汚い灰緑の肌に豚ッ鼻。薄い体毛も灰緑だ。腰には毛皮の腰巻き。ゴリラよりは理性的な顔付きは人間の女を好み、犯し、繁殖する。

　何処をどう見ても、オーク、だ。

　そもそも、ここ巣鴨迷宮にはオークは出現しない。と言われていたし、俺が調べた時にはデータベースにも登録されていなかった。万が一にも襲われる、犯される危険が無いからと、迷宮案内サイト「ダンログ」でも初心者女性探索者にお薦めされている。★４つだ。

　しかも、ヤツが腰に佩いているのは剣だ。棍棒じゃない。

　振り回すだけの棍棒に比べて、剣は刃を意識しないと使えない。アレを使えるって事はただのオークではない。

　ソルジャーってことだ。

　オークはゴブリンと同じく集落を形成する魔物で、下位種のオークを筆頭に、数種類の上位種が確認されている。

　オーク→ソルジャーオーク、アーチャーオーク、オークマジシャン→オークナイト→オークジェネラル→オークキングだったかな？　

　なんで、職業名＋オークで統一されていないのか。オーク＋職業名が混ざってるのは何故なのか？　なんか気持ち悪いが、俺が決めてるんじゃ無いしな。許さないけど。

　オークジェネラルの中でも名前付きのヤツはＨＭ（ハイパーモンスター）だし、オークキングなんて確認されているヤツは全て、名前付き（ネームド）だったハズだ。

　まあ、鎧を装備していない以上、オークナイトということはない。盾も持ってないみたいだし。それにしたって……杜、巣鴨の第四階層でソルジャーオークか……。黒毛狂熊（マッドベア）ほど深層ではないが、ヤツだって大抵の迷宮で、十階層後半で出現する魔物のハズだ。

　何かおかしい。普通ではあり得ない事が二回もあれば……これはもう、確実におかしい。異常事態だ。