第2話 第二の事件


 須藤署長と金田管理官の好意により・・・どのみち会議室であーでもないこーでもないと議論している場合ではなくなったので、死体の発見現場へ一緒に行けることになった。


「もし今回の事件が交換殺人で、今向かっている事件が容疑者Aによる犯行だとすると」

 明石は遠慮のない意見を2人にぶつけていた。

「張り込みを解いて間もない時期の犯行だとしたら、とんだ失態ということになりますよ。交換殺人だとすると、ほぼ同じ時期に犯行を行うのは馬鹿げています。それだと犯行の構造がわかりやすいから、交換殺人だと気づかれやすい。だから互いに被害者と面識がなくて、なおかつ殺害時期をずらし、架空の第三者による連続殺人に見せかけられれば、より完全犯罪に近づくことになります。張り込みをやめたのは、そのきっかけを与えたことになってしまう」


 明石に好き放題言われても、2人は押し黙っていた。明石がこういうやつだということは、田中管理官から聞いているのだろう。



 現場はふだんあまり人気ひとけのなさそうな林の中だった。

 現場へ到着したとき、僕は今回は死体を見る覚悟を決めていたのだが、幸いにして大量の血が流れているようなスプラッタ系の死体ではなかった。なんと、刺殺体ではなく絞殺こうさつ体だったのだ。


 鑑識職員が寄ってきて、説明してくれた。

「被害者は40代の男性で、遺留品から氏名が判明しています。この前の殺人事件の被害者と同じ会社の人間ですね。死後1週間ほどと思われますが、死亡推定時刻の特定は解剖所見を待つことになります」


 死体はうつ伏せに倒れていた。さらに鑑識職員の説明では、現場に双眼鏡が落ちていたので、バードウォッチングに誘われるなどして現場に誘い出され、後ろから布状の物で首を絞められたのではないか、ということだった。


 僕は明石に言った。

「死後約1週間ということは、前の事件の容疑者Aの張り込みを解いて1週間くらいしてからの犯行ということになるな・・・もしそうなら、やはり交換殺人ということもあり得るのか。でも被害者がバードウォッチングに誘われて殺されたのだとしたら、容疑者と被害者の関係が親密すぎて、交換殺人にそぐわない気がする」


「うん、これは容疑者Aの犯行ではない可能性が高いな」

 明石は思いがけず、あっさり交換殺人説を否定するようなことを言った。

「おそらく2週間も張り込まれれば、容疑者も薄々気づくはずだ。いつまで張り込まれるのかわからない状態で、殺人という危険を犯せるものなのか? やるとしたら、確実に張り込みが解けたと確信できたときだ。そう考えると、張り込み解除の1週間後というのはいささか早すぎる」


「では第一の事件とは無関係の、第三者による犯行だと?」

「殺害方法が違っているから、その可能性はある。一方で、それでも第一の殺人はまだ交換殺人の可能性を排除できないな」

「どういうことかね?」金田管理官が問う。


「もし第一の事件が交換殺人だとすると、次の順番は容疑者Aが被害者Dを殺すことに決まっています。そうすると共犯者Bから『早く殺してくれ』とせっつかれているかも知れません。しかし容疑者Aは、第一の事件の被害者Cに対する殺害動機を持っているわけですから、必ずいったん自分が取調べを受ける立場になります。そうすると、なかなか犯行を行う機会を見つけられず、躊躇してしまうかも知れません」


 何か気になるところがあるのか、明石は死体の首元を覗き込みながら続けた。

「しかし約束だから、らないわけにはいかない。スマホの任意提出を求められる可能性があるので、AとBはおそらくパソコンで連絡を取っていたと思われますが、もしそのやり取りから交換殺人計画に気づいた第三者がいたらどうなるか。その状況を利用して、自分が殺したいやつを始末してやろうと考えるかも知れません」


「それはまた、なかなかあり得なさそうな推理だな」

 僕が呆れ気味に言うと、

「だからこの前言ったとおりさ。あり得なさそうなところから排除していくのが、推理士のやり方だから」


 そういえばそんなことを言ってたっけ。なるほど、それで可能性がなくなった部分の推理は変節していくわけだ。


「ところで死体を覗き込んでいたけど、何か気になることでもあるのか?」

 僕が尋ねると、

「首を絞めるのにどうして『布状の物』だったのかな、と思ってさ。普通はロープ状のしっかりした物で締めるはずだろう? しかも死体はうつ伏せになっている。後ろから馬乗りになるようにして締められたんだろうか? 何か不自然な感じがするんだよな」


 そこへまた、驚くべき情報が飛び込んできた。この第二の事件の

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