第5話
「クレイス、説明しなさい。何なのよあれ!」
「マヤが全力でって言うから……」
「だったとしてもよ! あんな馬鹿力だって分かってたら試験にも気を遣えたのに……! はぁ、ごめんね。私が君のことをどこか子ども扱いしてたのが悪いんだわ」
あの後試験は中止ということになり、「すごい音がした」と冒険者や受付の人が集まってきた。口をパクパクさせていたマヤはハッとして「解散解散!」と僕に興味津々そうだった冒険者たちを帰らせていた。
「だが、これだけの力を持っていながら今までどこで何をしていたんだい?」
そして今、マヤと、隣にいるギルドマスター? という人と話をしている。
ギルドマスターは元
「ええと、爺ちゃんと一緒に暮らしてて……家から出ちゃダメって言われてたんだ」
「なるほど、田舎村で二人暮らしだったか。生活にも苦労しただろう」
本当は村じゃないんだけど、爺ちゃんにも洞窟のことは言うなって言われているからそういうことにした。でも、隠し事って少しだけ胸がチクチクするからあんまりしたくないな……。
「クレイスくんが故意ではないことも分かった。しかし設備を壊されるとこちらも困るのでな……そうだ、君にある
「ええと、それで許してもらえるってこと?」
「いや、脅しのつもりは無いが……まあ、そういうことにしようとは思っている。それに達成したら規定通りの報酬は渡す」
「だったら普通のこと、じゃないですか?」
「……まあ、一度内容を見せよう」
そう言ってギルドマスターは一枚の紙を取り出して机に置く。
「これは?」
「白金級冒険者の捜索をしてほしい。場所は
突然マヤが立ち上がる。
「マスター! いくらクレイスが強いと言ってもそれは……!」
「あの、
「我々の観測上、2番目に難しいとされているダンジョンだ。ラストダンジョンには劣るだろうが、その難度から現在も攻略はされていない」
「そこにいる冒険者を探してほしいってことですね。分かりました」
「……ふふ、はっはっは! クレイスくん、この依頼を二つ返事とはやはり君は面白いね。正直断られると思ってたよ」
「だって、白金級冒険者がそこで困ってるんですよね? だったら、僕は行きます!」
「いい返事だ、よろしく頼む」
そう言って、ギルドマスターは自分の服に付いていた白っぽく美しい飾りを僕に手渡す。
「これは?」
「白金級を示すバッヂだ。身に付ける必要はないが持っていてくれ」
「え、僕が白金級……?」
「白金級を捜索するなんて彼らと同程度の力がないと出来ないことだ。そして私は君にその力があると判断した。正式なものは後日渡すが、今はこれを」
「は、はい! 頑張ります!」
「初依頼がこれだなんてとんだ化け物新人ね。クレイス、ちゃんと準備してから行くのよ!」
「マヤも、ありがとう!」
そうして、僕はギルドを後にした。準備か……何をしたらいいんだろう、と思っていたらギルドの入口近くの壁にカルトンがもたれかかっていた。
「よお、派手に暴れまわったらしいじゃないか、神様?」
「いや、別に暴れたわけじゃなくて……」
「はははっ! いや、そういう冗談だって。何があったか教えてほしいが、とりあえず食事にでも行こうぜ」
僕たちはカルトンおすすめの食事処「竜の卵亭」で食事をすることになった。
「クレイス、お前は何にする?」
「え、ええと……分からない、どれが何なんだろう」
「あ、そうか。神様は町の飯は食ったことないか。よし、じゃあ俺がとっておきのもんを食わしてやるよ! おばちゃん!」
カルトンが何か言ってしばらくしたら、ひとつのお皿に色んなものがたくさん乗った料理が出てきた。
「ほらよ! これが名物、牛のステーキ山盛りプレート、鶏卵6個載せだ!」
「わ、わ、美味しそう! これ、食べていいの!?」
「当たり前だ。今から依頼こなしに行くんだろ? だったら腹いっぱい食わねえと」
「ありがとう! はむ……」
僕は皿に頭を突っ込んで、肉に卵に、下にあるコメというものもたくさん口に含んだ。しばらく何も食べてなかったから、いくらでも食べられちゃうなあ。
「お前食い方獣かよ! ちょ、ちょっと待てクレイス!」
カルトンが食べ方を教えてくれた。どうやらフォークというものを使うらしい。
「んで、お前が受けた依頼ってどんなのなんだ?」
「えっと、白金級の捜索だったかな」
「プ、白金級の捜索ぅ!? は、はは……お前、本当に神様なのか? いや、てか白金級になったのか?」
「そうなのかな。ギルドマスターに今だけってもらったけど、ほら」
「うぉ! これはマスターのバッヂ……な、なるほどな……」
はぁ~と上を向きながらため息をつくカルトン。どうしたんだろう?
「
「うん。初めての依頼だから頑張らないと!」
「……だな。じゃあクレイス、これ食ったらうちに来い! 準備に必要なもの、俺が全部やる。薬に、食料と……あと水もあった方がいいか……」
「え? でも、そんなにもらえないよ!」
僕がそう言うと、カルトンは僕の両の頬を摘まんだ。
「馬鹿野郎。冒険者はな、助け合いなんだよ」
「助け合い?」
「ああ。俺たちは同じものを求める同業他社、ある意味敵同士って見方もあるけどさ、それ以前に全員が仲間だと思うんだ」
「全員が、仲間」
「ああ、仲間だ。だから俺はお前を助ける。冒険者ってそうあるべきだと思うんだよな」
カルトンはそう言って肉を頬張った。彼の言葉に胸が熱くなる。やっぱり、冒険者って素敵だ。
「ありがとう」
「いいってことよ。こっちとしても神様級に強い冒険者に恩が売れるなんて最高だ」
その一見悪そうな笑いの奥に、溢れる優しさが隠れているのがバレバレだった。
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