第6話

 僕は今、悪魔の巣窟デビル・ダンジョンの中にいる。背中には僕の体の半分はありそうな大きなリュック。その中にはカルトンが用意してくれたアイテムがたくさんだ。


「これが2番目に難しいダンジョンかあ」


 ぽろっと、声が漏れてしまう。たしかに、いたるところで現れる禍々まがまがしい見た目のモンスターは、鋭い爪、鋭い牙が生えている。けど、僕にとっては正直見慣れた光景でもあるんだよな……。


 僕の住んでいた洞窟、そこがラストダンジョンと呼ばれていることはカルトンから教えてもらった。もちろん僕が住んでいたことは秘密にして、一番難しいダンジョンってどこ? と聞いたらすんなりだ。


 ラストダンジョンに住んでいたな獣たちに比べたら、これくらいは問題ない。爺ちゃんの方が何千倍も強いし。


 ということで、湧いては襲ってくる悪魔たちを払いのけ深いところまで潜ると、ダンジョンの深層の方から戦闘のような音が聞こえてくる。まだまだ元気な足を動かすと、そこにはボスらしき巨大な悪魔が、この層を埋め尽くすほどの悪魔を従えて冒険者と戦っていた。


 悪魔たちは「ゲヒャヒャ」と聞こえる嫌な笑い声を出している一方で、冒険者たちは傷だらけで今にも倒れそうだ。4人の冒険者は必死に戦っているけど、正直勝ち目はないように見えてしまう。


「くっ、次から次へとキリがない! 俺の斧も血で切れ味が悪くなってきたぞぉ!」


 そう言いながら巨大な斧で悪魔を押し潰す屈強な男の人。


地獄の炎インフェルノの詠唱が終わるまでなんとか持ちこたえて!」


 呪文を詠唱する女の人。強力だけど、きっとあの悪魔の王を倒すには至らないだろう。


「ええい、癒しの光ヒールはまだか!」


 一番敵を倒してるのはこの男の人だ。剣、魔法の両方で悪魔たちを圧倒しているけど、数が多すぎて苦戦しているみたいだ。


「すみませんヴァティオさん……魔力が……はぁ、はぁ」


 苦しそうな女の人。他の冒険者に比べると、戦いについていけてないみたいだけど……大丈夫かな……。いやいや、そう思うのは失礼なんだった。けど……。


 周囲を飛び回る悪魔が苦しそうな女の人を狙う。他の3人を通り抜けて、鋭い爪がキラリと光って、それで……。

 僕の頭によぎったのは、あの日傷つけてしまったヒュドラ爺ちゃんの顔と、死にかけていたジョーン。ああ、駄目だ。


 ドカン!


 僕は荷物を持ったままその場を飛び出して、悪魔をひと殴りした。どうやらびっくりするほど大きな音だったようで、その場にいる冒険者、悪魔の目の全てが僕の方を向いた。


「助けに来ました! うおおぉぉおおおお!!!」


 そのまま、悪魔の王へ足は向く。


「どいて!!!」


 襲ってくる悪魔を振り払う。僕の足は止まらない。

 ついに僕の眼前で巨大な悪魔が焦りに満ちた声を上げる。


「ウオオ……!! ガアァ!!」

「悪いね。冒険者が死ぬのは見たくないんだ」


 振り上げられた悪魔の巨大な腕。僕は膝を曲げ、思い切り地面を蹴った。


「くぅらえええええ!!!」


 左の拳で巨大な腕を弾き飛ばす。そして右の拳で、悪魔の王の顔を一発。ボグォという音とともに、悪魔の王は壁に叩きつけられた。

 しもべたちは王がいなくなったからか、突然苦しみはじめた。そして、全てがキラキラと光に包まれ、消えた。


「え、これは……どういうこと?」

「おい、おいおいおいおいおい。お前、横取りとはやってくれたな」

「ちょっと、ヴァティオ!」


 目の前には、ヴァティオと呼ばれる一番強い男の人とそれを止める魔法使いの女の人。

 え、でもこのままだと皆死んでたかもしれないし……とは言えないけど。


「あの、横取りって」

依頼クエストの横取りに決まっているだろう! これは俺たちが受けた依頼だぞ。君は何をしにきたんだ、え?」

「その、ギルドマスターから冒険者の捜索に……」

「ヴァティオ、きっとそれ私たちよ」

「そ、そうなんだ。だからここに来て」

「フン、だったらやっぱり横取りじゃないか。お前の仕事は捜索だ。俺たちの間から抜け出してボスを倒すことでは断じてない!」


 ヴァティオは剣を僕に向ける。


「たしかに、やってしまったことは謝るよ。でも、この女の人が危険なところだったから」


 そう言って倒れていた女の人を見る。さっきよりは状態は良くなったみたいで、フラフラとしながらこっちへ歩いてきていた。


「ヴァティオさん。彼には横取りの意志はなかったみたいですし、そもそもこうなってしまったのは私が原因です」

「ああ、そうだな。俺たちの仲間に入れてほしいと実力を見せたはいいが、実践ではこうも使えないとはとんだ詐欺師だ」

「……すみませんでした」

「お前に冒険者は向いていない。故郷に帰って大人しく暮らすんだな」


 ヴァティオがそこまで言ったところで、僕の中の熱い何かがグツグツと煮えたぎる音がした。

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