第3話
翌日。日が昇る頃に、僕は爺ちゃんと別れの挨拶を交わした。昨日の夜は寂しくてたまらなかったけど、今日は爺ちゃんの方が色んなものを我慢してるのが伝わってきて、自分の寂しさには気付かなかった。
「クレイス……もう、行くんだな」
爺ちゃんは真剣な面持ちの1つの顔をこちらに向けている。残りの8つは……後ろを向いてプルプル震えていた。気持ちは分かるけど、外に出づらいよ。
「うん。早く出たくて仕方ないよ」
「そうかそうか。そうだなあ、お前を拾ってたったの15年。短すぎる時間だったな……」
「大丈夫! 冒険が終わったら帰ってくるからさ」
「本当か! でも、急がないでいいからね。クレイスがやりたいことをやりなさい」
「……うん! いってきます!」
僕は爺ちゃんに大きく手を振り外への一歩を踏み出した。踏み出した足はどんどん速くなり、ついスピードを出しすぎてしまう。
普段1時間くらいかかる洞窟の道のりを半分くらいで上がりきってしまう。だって、だって、ようやく堂々と外に出られるんだから!
僕の記憶では初めて見る太陽。それはとっても眩しくて暖かくて、僕のことを応援してくれているようだった。
高いところに飛び出して見ると、ここがとても高い山だということが分かった。僕は今までこんなところに住んでたんだ!
大きな鳥さんも僕のことを祝ってくれてるみたい。ありがとう!
「グギャギャギャ!」
大きな鳥さんは
でも、ごめんね。僕は今から冒険に出るんだから! 君には食べられてあげないよ!
鳥さんの背中に飛び乗り、ちょっと悪い気がしながらも踏み台にして僕は地面目掛けて飛ぶ。
「さあ、どんな冒険ができるかな。楽しみだ!」
数時間後、ラストダンジョンから遠く離れた森の中の街道にて。
「えぇ……ここ、どこ……」
僕は迷っていた。嬉しさのあまり調子に乗って山を駆け下りて、勢い余って真っ直ぐ猛ダッシュ。
初めて見る草や木、動物やその他色んなものを眺めていたら、こんなところに来てしまっていた。右も左も同じような景色でどっちから来たかも分からない。あまりに途方に暮れる僕は、落ちてる小石を数え始めていた。あ、これで272……。
その時、遠くの方で何かが燃えるような臭いが鼻を突いた。もしかしたら人がいるかもしれない! と僕は急いでその方向に向かった。草をぐんぐんか掻き分けると、そこには……。
人間が奪い合いをしていた。いや、殺し合い? 見たことのないくらい悪い顔をしている人たちが、馬、馬……馬車か。馬車を囲んでいる。馬車の近くでは剣を持った強そうな人が、髭の生えた人間を守っている。
悪い顔の人たちが囲んだ人を傷つける。体から血を流してなお誰を守ろうとしている人を見て、僕の体は自然と動いた。何とかしてやめさせなきゃ! と。近くにあった高い木に登り、人の群れを狙う。
「待ってえええ!」
ズドン! という音と共に囲まれてた人の隣に着地する。周りの人全員がそうだけど、特に隣の人たちが一番びっくりした顔をしてるや。
「な、なんだ!? あんたどこから……」
「こんなことやめにしましょう!」
囲んでいた側の人の1人が一歩こちらに踏み出してくる。
「おい坊主、てめえ何を言ってる? 山賊が命乞い聞いて許してくれると思ってんのか」
「……はい! 誰かが傷つくのは悲しいことです。だから、止めてください」
「ハーッハッハッハ! 馬鹿言え、どこの金持ち坊ちゃんだよ!」
一斉に笑い始める周りの人たち。もしかしてこれは何とかなったんじゃないだろうか……?
「だったらてめえも一緒に死ね!」
空気を切る音が目の前まで迫る。急に目つきが変わった悪い顔の人たちの考えは変わらないみたいだ。だったら……。
「えい!」
僕は刃物を振った目の前の人を
「ぐうおぇっ……!」
「な! まずはこいつからやってしまえ!」
たくさんの人が僕に向かってきたので、一人ずつ丁寧に地面に寝かせる。丁寧に丁寧に……。
「うおっ! がっ!」
「なんだ!? うわぁ!」
「馬鹿にしやがって……どわ!」
上手くできた気がする。これで止めてくれるかな、と周りを見ると1人が僕の目の前に立っていた。
「お前、冒険者だろ。手下を倒したくらいでいい気になるなよ……俺たち
「え、うわ!」
ゴツン! と拳で振り払ってしまった。いや、だって急に飛び出してくるからびっくりして……というかこの人、すごい速いんだもん……。僕に襲い掛かってきた人は吹っ飛び、周りの人は大慌てしている。
「か、頭が! お前たち……覚えてろよぉ~!」
逃げた。こっちもものすごい速さだった。
「なあ、あんた! 助かったよ……って、痛! なんだよ親父」
「馬鹿息子がすみません! この度私たちを救ってくださり助かりました……! あなたはきっと、神様なのでしょう!?」
か、神様?
「親父……なわけないだろ。な? あんた冒険者だろ、どこから来たんだ?」
困ったな。爺ちゃんは洞窟のこと言わない方がいいって言ってたし……ええと、ええと……!
「あ、あっち……」
咄嗟に空を指さした。ま、まあ方向的には間違ってないからね……?
「マジかよ、空から降りてきた的な? 無理して親父の妄言に付き合わなくていいんだぞ」
「何を言うか! ああ、ありがとうございます! この恩は必ず、必ずや返させてください! 立ち話もなんですから。まずは馬車の中にでもどうぞ」
「え、あ、でも僕は……」
「神様かどうかはともかくさ、あんたは俺たちの命を救ってくれたんだ。だから礼くらいはさせてくれよ。俺はカルトン・ハマー。こっちは親父のピード・ハマーだ」
「ほほ、改めてありがとうございました」
「僕は、クレイスです。」
「クレイスか。よろしくな!」
「コラ! お前はその言葉遣いを何とかせんか!」
2人はとても愉快な人みたいだ。人と話すってこんなに楽しいものなんだ。
「どうした。そんなしんみりした顔して、流石に疲れたか?」
「まあ、色々あって……」
僕は2人に、朝からずっと彷徨っていたことを伝えた。すると「だったら町まで案内するし、そこで礼もさせてくれ!」と言ってくれた。ジョーンも優しくしてくれたけど、2人の優しさはまた違って、僕の心はぽかぽかして嬉しくなった。
「うし、じゃあ決まりだな! 町へ着いたらハマー商会が全力で礼をするから楽しみにしててくれ!」
「ハマー商会?」
「なんだ、聞いたことくらいあるだろ。まだ新しい商会だけどよ、冒険者に優しいところを目指してんだ」
「商会、を知らない。何、それ?」
「クレイス、お前まさか本当に空から落ちてきたっていうのか……? まあ、人には言えないことの1つや2つあるんだろう。じゃあ丁寧に説明してやるよ」
カルトンは商会を説明してくれた。商会は、色んな町で物を売ったり買ったりしてお金というものを稼いでいるらしい。たくさんの種類がある中でも、カルトンたちの商会は冒険者に向けて装備や道具を売るのがメインみたいだ。
他にも、カルトンは冒険者をしていること。今日はお父さんの護衛任務を請け負ってたが山賊に襲われたことなど、色んなことを教えてくれた。カルトンの話す何もかもが僕には新鮮で、夢中になって聞いていた。
「お、そろそろ到着だな。クレイス、見てみろ! あれが最大の交易都市『クルシド』だ」
「わあ! すごい、すごい!」
僕の目の前には、様々な色、形をした建物がたくさん並んだ町の景色が広がっていた。
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