第6話 退屈な日々

 わたしたちはこれを機に親しくなりましたが、この関係がいっそう接近するのは、二年時の年始休暇が明けてしばらくが経ったあとのことでした。


 当初わたしは気がつきませんでしたが、彼は非常に友達の多い人間でした。そうはいっても、誰しもと仲良くなれるわけではなく、それは彼と波長の合う、割合変わり種な相手に限られましたが。ナオスミのグループは全部で十人くらいの集まりで、いつも決まって四、五人ほどが、彼を中心に屯していました。彼はその中で、誰からも好かれている様子でした。また、彼の方もみんなを好いているらしく、彼が笑うとみんなも笑ったし、みんなが笑うと彼も笑いました。


 彼らはまるで家族のように、ベタベタと身を寄せ合って生活を送りました。授業終わりの休み時間や、昼食時、放課後の自由時間さえも、ナオスミの周りには必ず誰かがいて、いつも騒がしくしていたものです。彼らが騒がしくするのを、周囲の者がひどく疎んでいたことを、わたしはよく知っていますが、彼らにとって、そんな周囲の評価などどこ吹く風な様子でした。


 まったく、あきれるほどに浮かれた連中でした。彼らとくると、わたしが一人でいることさえ、決して許してくれないのです。食堂や、中庭、教室にて、わたしが一人でいるのを発見すると、彼らは決まって話しかけてきては、どこかへわたしの手を引いてゆこうしました。わたしはそのたびごとに、ほとんど反射的に、苦々しい顔を浮かべ彼らへ向けるのですが、しかし白状してしまうと、その内心は、決して表情ほど嫌がってはいませんでした。


 いや、わたしはむしろ、彼らの中で初めて、自らを正しく表出できるような気さえしていたのです(むしろ、そう思い込んでいたのです)。すなわち、これまでのわたしはすべて嘘っぱちで、いまのわたしこそがほんとうなのだと、痛々しくも勘違いをしていました。わたしにとって相応しいのは、おとなしい彼女たちなどではなく、ナオスミたちなのだ、と。そんなわたしの元を、かつての友人たちが去ってゆくのに、もちろん大した時間など必要なかったのです。


 わたしは清々して、きっぱりと彼女らに別れの言葉を告げました。そのときのお互いの遠慮なさと言ったら……それはもはや、喧嘩とさえ呼べない有様でした。そして、わたしはそれ以来、どっぷりと彼らに浸かってゆくのです……


 しかし、ここでこれ以上、ナオスミらとの付き合いについて詳しく書いても仕方がありません。そんなのは特筆に値しない、退屈な日々のくり返しですし、なによりあなたにとって、いっさい興味を惹かれないテーマでしょうから。(だいいち、他人の綿密な恋愛日記など、いったい誰が読みたがるものでしょう?)。それに、もう気がつくと辺りは真っ暗ですし、わたしの手首もそろそろひどく痛んできました。ですから、もう少しの辛抱──最後に彼らとの印象的な一日を、とあるパーティのあった日のことについてを書き、一度ペンを置いてから、わたしはこの物語を、いよいよ核心へ向けて進めてしまいたいと思います。

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橙色の灯り 枚島まひろ @maishimama

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