ピンだらけでピンと来ない

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

 スッテンコロリンと転んでしまいましたわ。家の扉を開けて3秒後の出来事ですの。でも、こんなのよくあること。ちゃんと夜中に扉の前確認したのに侮れませんわ。本当にボーリングのピンって一体何なのかしら。


「あらやだ、学校に遅刻しちゃうわ。」

私はダッシュシューズに履き替えました。転ばした犯人のボーリングのピンを私は鞄に入れることにし、駅へとダッシュしました。


 ダッシュ中にもいたるところにコロコロと、またしても転びそうになる。どうしてこうもボーリングのピンっていたるところにあるんでしょう?不思議ですね。


 なんとかゼーハーゼーハーと息を切らし電車に乗った私はギリギリ学校へ着いた。


 ガラガラと教室に入った私は今日の出席者を確認した。昨日よりも少し多くて私は嬉しかった。


 私の担当は歴史である。

「つまり私たちは今から千年前にこの星へと移民してきたのです。その時にはほとんどこの星に知的生命体は生き残っていなかったと言われていますわ」

実際のところは分からない。ただ書物にはそう記されているんだから憶測を教える訳にはいかない。

「そして、この星の謎は今朝先生もスッテンコロリンしてしまったこのボーリングのピンです!」

私は今朝の犯人を鞄から出した。

「先生わざわざ持ってこなくても、そんなのそこら中にありますよ」

「ま、そうなんですが記念に持ってきちゃいました。皆さんはどうしてこんなにもボーリングのピンがいたるところに転がっていると思いますか?」


「この星に元々住んでいた知的生命体の武器だと思います」

「だな。細い方で持つと持ちやすいし、硬くて殴ったら痛い」

「歴史には争いはつきものですものね」


 つまらないですわ。これは所謂一般論で、テストなどではそのように答えるのを正解としてはいいます。しかし、しかしですわ、もっと素敵なものでもいいんではなくて?

 

 「先生はエキサイト論を推奨しています」

エキサイト論はかなり少数派の意見で、今から500年前、まだボーリングのピンと名前が分からなかった頃にボソっとエジュール・ミハエルが台所で妻と談笑中に話した「なぁ妻よ、あれで何かして遊べないだろうか?」


 このことがきっかけになり、口コミで広がって、一つの説として今も尚残っている。でもその方が私は納得できる。だって争う為のものより楽しむ為のものを作った方がよっぽど合理的じゃなくて?あとそっちの方がロマンを感じませんか?


「先生、合理的じゃないですよ」

「先生、マイノリティーにいくのはいいですけど、それじゃあ誰も付いていけませんよ」

「先生可愛い」


 顔が赤くなりましたわ。ちなみに、今から300年前にボーリングのピンそのものに書かれている文字の解読に成功して、それでボーリングのピンという名だとされていますわ。


 公園のベンチに座るのが私の日課となっているのは子供たちを見る為ですの。子供たちはこのそこら中に転がっているボーリングのピンを使ってよく遊んでいた。私がエキサイト論を推奨する最大の根拠となっている。元々はエジュール・ミハエル氏がエキサイト論を唱えなければ、このように子どもたちが遊ぶことはなかったといいますわ。


 子供たちはボーリングのピンを蹴って相手にパスし合いをしていた。しかし、随分蹴りにくそうにしていた。それに、決してボーリングのピンは蹴るのに向いているとは思えませんわ。


 他の子どもたちを見ていますと、床に置いてクルクル回す子や、ただ何かを叩いてその音を楽しむ子と様々にこのボーリングのピンを使って遊んでいた。


 私もエキサイト論を推奨する身なのですから何かボーリングのピンを使って遊びを考えないと、また生徒たちに笑われてしまいますわ。と言っても子供たちが色々とやってしまってそれ以外を考えるとなると難しいですわ。


 幸いなのは子供たちがやっている遊びはいずれも、本来のボーリングのピンじゃないと感じるところ。なんかもっと斬新な新しく、みんなが無我夢中に、それは大人も含めてなものじゃないと、こんなにたくさんボーリングのピンが転がっている理由になりませんわ。


 私は鞄の中に入れていたボーリングのピンを取り出し、何かピンとくるものがないか考えていた。頭の上に乗っけて見たり、膝の上にのせて猫のようになでたり、肩をぎぐりぐりしたり、これが意外と気持ちよかったですわ、そんなことをしていても何にもピンと来ませんでしたわ。


 気が付いたら当たりが暗くなってましたの。私は口元のよだれを拭いて帰ろうとしましたわ。するとカァーカァー鳴くカラスが私めがけて小石を落としてきたのですの。酷いじゃないですか。私は無視をしていたんですが、他のカラスも私めがけて小石を落として何やらエキサイトしてまして、私は腹が立ちましたの。


 それで落ちてきた小石をこのボーリングのピンの細いところを持って太いところを上にして小石めがけて振りましたの。そしたら当たりましたの。コーンって音を立てて、その音にカラスがビビったのかすぐに逃げていきましたわ。ざまぁないですわ。


 お風呂に入って私は湯以外にも優越に浸ってましたの。本当にあの驚いたカラスの顔が傑作でして、それに良い音が鳴りましたわ・・・・・・これだわ!


 私はタオルで拭かずにパンツと下着を着て、急いで外へ飛び出しましたわ。大丈夫人間の7割は水分なんですから、元々人間はビショビショなんですわ。ともっともらしいことを言ってボーリングのピンはそこら辺に落ちているからすぐ見つかりますけど、案外小石が中々見つからず結局公園まで来てしまいましたわ。


 私は小石をポーンと投げてボーリングのピンを振って当てようとする。しかし、さっきは調子よくできても今度は当たりませんの。でもそこがいい。そうすると、今度こそ、今度こそと何度もチャレンジしたくなりますの。そして当たった時の快感と来たら、もう最高ですわ。ただ小石は中々見つからないし、危ないので改良の余地がありそうですわ。この遊びが出来たころにはもう少し学会もエキサイト論派が増えるかもしれませんわ。


 こうして私は小石の代わりに丸く柔らかい布製のものを作った。これが後にボーリングからボーリと呼ばれ、すぐさま語呂が良くないという理由でボールと呼ばれました。


 私の考えたこのボーリングのピンを振ってボールを当てて飛ばす遊びは流行った。後にこの遊びは野を駆け回り9VS9で行われ、ポジションなんかも増えて駆け引きや技術など加わりとてもエキサイトできる遊びへと変わりました。


 そうです。これが皆様のよく知る後のピンボールですわ。

 



 

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