第3話 失われた声(続き)

翌朝、香織と涼介は早速町の外れへと向かった。薄曇りの空が広がる中、二人は古びた地図を頼りに目的地を目指した。目的地は町の外れにある古い廃屋で、かつて「声を失った子供」が住んでいた場所だった。


廃屋に到着すると、荒れ果てた庭と崩れかけた家が彼らを迎えた。草木が伸び放題で、長い間人の手が入っていないことが一目瞭然だった。


「ここがその家か…」涼介は廃屋を見上げながら呟いた。「なんだか、今にも何かが出てきそうな雰囲気だな。」


「そうね。でも、ここに来た以上は、しっかり調べましょう。」香織は決意を込めて答えた。二人は慎重に廃屋の中へと足を踏み入れた。


内部はほこりまみれで、家具も壊れかけていた。壁には昔の家族写真がかすかに残っており、その一つに、例の「声を失った子供」と思われる少年が写っていた。


「これがその子供ね。」香織は写真を手に取り、少年の顔を見つめた。「彼がどこに消えたのか、それを突き止める必要があるわ。」


二人は部屋を一つずつ調べていくうちに、古い日記帳を発見した。日記は少年の母親が書いたものであり、彼女の心情や家族の状況が赤裸々に綴られていた。


「この日記には、彼女が息子の変化について書いているわ。」香織は日記をめくりながら説明した。「彼が突然声を失った後、家の中で奇妙な現象が起き始めたと。」


涼介も日記の内容に興味を示した。「ここに、夜になると『何者かの視線を感じる』と書かれているな。それが『鬼太郎』の存在を示唆しているのかもしれない。」


香織は日記をさらに読み進め、その中に書かれたある日の記述に目を留めた。「ここに重要な手がかりがあるわ。彼が姿を消す直前、母親は『鬼太郎』のような存在を目撃したと書かれている。」


その記述によれば、少年が姿を消す前夜、母親は家の庭で奇妙な影を見かけた。その影は、まるで「鬼太郎」のような姿をしており、彼女の目の前で一瞬にして消えたという。


「これは、単なる偶然じゃないわ。」香織は確信を持って言った。「この家には、何か特別な力が働いているのかもしれない。それが少年をどこかへ連れ去ったのかも。」


涼介も香織の意見に同意し、二人はさらなる手がかりを求めて家の周囲を調べ始めた。その時、香織は庭の一角に、奇妙な模様が刻まれた石碑を発見した。


「涼介、これを見て。」香織は石碑を指差した。「この模様、どこかで見たことがあるわ。」


涼介も石碑を見て驚いた。「これは…妖怪に関連する古い呪文や儀式に使われるものじゃないか?もしかすると、この石碑が『鬼太郎』や他の妖怪を呼び寄せたのかもしれない。」


香織は石碑を慎重に調べ、その上に記された文字を読み取った。「この文字、古代の文字ね…『ここに力が宿る』と書かれているわ。」


その瞬間、周囲の空気が一変した。冷たい風が吹き抜け、二人の背筋に寒気が走った。香織は石碑に触れながら、確かに何かが動いているのを感じた。


「香織、気をつけろ…」涼介は警戒心を高めた。


その時、不意に周囲の影が動き始め、二人の前に立ちはだかった。香織は息を飲み、涼介も身構えた。


「誰か…いるの?」香織の声は震えていたが、彼女の目には確固たる決意が宿っていた。


影の中から現れたのは、一人の女性の姿だった。彼女は穏やかな表情で二人を見つめ、その口元には微かな微笑みが浮かんでいた。


「あなたたちは…誰?」香織が問いかけると、女性はゆっくりと口を開いた。


「私は、この家の守り手です。」女性は静かに答えた。「ここには古くから伝わる力があり、その力が『鬼太郎』を呼び寄せたのです。」


香織と涼介は、その言葉に新たな疑問と共に、さらなる真実を求める決意を固めた。そして、この家と『鬼太郎』の謎を解き明かすために、彼らの冒険は続くのであった。

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