4.あの人に似ている

 性別が変わって、初のナンパを経験してから数十日が経過した。緑葉に色づく季節となり少し肌を冷やす様な風が吹く頃の土曜日。

 家からそこまで出ない妹の理途ことが休日にお友達を連れてきていた。

 「……その問題は〝インテグラル〟の微分f(x)積分g(x)が……だから──なるよ、理途ちゃん」

 何をしているのか気になって聴き耳を立てていた訳なのだが、どうやら勉強をしているらしい。

 理途は声を上げる。

「な、何これ?!意味わかんない!!!」

 その声に困り口調で「あはは……」の声が微かに聞こえてくる。そうして──軽い談笑が聴こえてくる。

 「……──のことが、──先輩は──す──なんでしたっけ?」

 「う、うん。そう、だけど、一方的な片思いだから……」

 どうやら休憩するらしい二人に僕は、飲み物と菓子物を持っていくことにした。キッチンで準備をする。

 そして、理途の部屋のドアをノックして──

 「おにぃ、いいよ~」

 その合図でノブを右に捻って開ける。そして、テーブルの角側にしゃがみ、先程置いた二つの物を木製トレーから移して言う。

 「熱いから気をつけてね」

 「あ、ありがとうございます」

 「兄〜ありがとぉ~!」

 感謝の声を聞きながら理途の友達の顔を見てみる。

 「あれ、どっかで見たような……」

 そんなことを思いながら見つめていると困り顔で言う。

 「ど、どうかしました?お姉さん……?顔に何か付いてますか?」

 心配されてしまった。僕は繕うように述べる。

 「いやぁ、綺麗な容姿だなぁと思いました……」

 男が言えば当然〝きっも〟と思われるかもしれない。しかし、今は性別が逆だ。

 「えへっありがとうございます。片思いの方なんですけど、その人の為に頑張ったんですよ〜そういって頂けると自信になります!」

 本当に思ったことを述べただけなのだが、嬉しそうに微笑む彼女に微笑みかけて。

 「んじゃ、理途、〝勉強〟頑張って。」

 そう伝え、その部屋を出る。そして、思ったことをポツリと呟く。

 「あの子、あの時の美少女そっくりだったなぁ、」


**


 そして、僕が去ってから僕のことで話し続ける二人。

 「そういえば、お兄さんって……?さっき、お姉さんをお兄さんと言っていたので……」

 「あー、にぃは最近、なんか、願って女になったらしいよ?原理は知らないけど……」

 その言葉に疑問と好奇の目で問う彼女。

 「あのお方が──そう、?ですか?」

 「あー、榧白かやま先輩は兄に片思いしてるんですもんね、さっきのが日夏兄です」

 この子の名前は榧白咲生かやしろ さき。妹の理途が通う学校の一個上の先輩である。日夏と同い年であり、ある事で日夏に片思いをしているらしい。──会話と言うべきか不明ではあるが、日夏との簡単な会話を出来て内心喜んでいた。

 「格好いい理途ちゃんのお兄さんが……女の子に……」

 「榧白センパァイ?顔、蕩けてますよ?」

 「あ、ごめんなさい!!そろそろ、再開しましょっ!ねっ?」

 「ですね、数学嫌ですけど、」

 そして、勉強を再開する二人。

 二人の会話が耳に入ってしまった。

 榧白という理途の先輩がさっきの子だったのかぁ、と思いながらベットで横になっていた僕はうとうとしながら、気づくと眠りに落ちるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る