3.モールで初ナンです

 週末に何かある訳でもなく時間は過ぎ去って性別が変わってから初の學園に登校する。

 そして、日夏の遠い親戚で海外留学から戻ってきたという名目を立てて〝日向〟と名乗ることになった。

 ちなみに、學園は少々変わっていて、月に何十人も転校・留学・休学等をするのだから一々紹介しても覚える人は一部のみで何ならキリがない。その為、転校生は紹介されない仕組みらしい。

 クラスの皆からは顔がいいヒロインの転校生にも見えるだろう……──見えていることは間違いない。

 僕に対しての反応で分かる。

 席に座るや否や、HRホームルーム後に男女関係なしに質問攻めにあったからだ。勿論、限界に達した僕は逃げるように書庫に来ていた。

「はぁ、疲れた。あの質問の量は思ってたよりも……」

 独り言を呟いている、横から声が聴こえてきた。

 その声の主は私を探していたらしい碧だった。

「日夏、朝から昼まで対応お疲れ様〜。まぁ、流石にこの時間は逃げてきたみたいだけど」

「対応が大変だった……転校生ってこんな感じなの?」

「いや、日夏が容姿端麗なだけだと思うよ。まぁ、いいや、お昼も残り僅かだしお弁当持ってきたよ?」

 碧からお弁当を受け取る。そして、中を見るとサンドイッチが入っていた。僕は目を輝かせながらに言う。

「わっ、ありがとう!お腹空いてたから助かるよ」

 感謝を伝えるとそれに碧が言葉を返した。

「あはは、お母さんに伝えておくね」

 その後、食べながら他愛もない話をした。


**


 そうして、5.6限と授業が終わって放課になった。他愛のない話の中で、私服や肌着を買いに行こうという内容が含まれていた為、1度帰宅してモールで待ち合わせをする。

「何で、お前が居るんだよ、夜」

「へ?何でって……碧に呼ばれたから?」

 何故疑問形になる?と思いつつ「へぇ〜」と言葉を返す。コイツは幼馴染の柏鉉 夜かえづる よる。ガタイが良く強面の柔道部部長で、更には脳筋おバカである。

 色々な店に入り、様々なものを碧と見て回っていると夜が愚痴を零すように言う。

「そういや、日夏を来ないんだが、何時いつ来んだ?」

 碧が口を開いて述べる。

「いや、もう日夏は来てるよ」

「え、?でも、何処にも……」

 そして、碧は僕に向けて指差ししながら言った。

「この子が〝日夏〟だよ。まぁ、今はそういう訳で〝日向〟って名前にはなってるけど。」

 〝そういう訳〟とは性別が変わっていることを意味しているのだろう。

 ポカーンとしながら──されど、理解した様子で頷く夜。

「なるほど、なるほど、ここに居る日向が日夏で、美人に変わった子が来るからってメールはそういう……」

 いや、碧さん?なんちゅう、ややこしい言い回しを??そして、話しを続ける。

「美人に〝変わった子〟が来るからって意味がよく分からんかったけど、女の子になってたんだな」

 「悪い、トイレ行って来るわ」

 突然、そう言い残してトイレに向かった。碧と二人になってタイミングが良かったこともあり、僕は夜にメールを送信して女性物の肌着の店へと入る……そうして、碧に「これがいいよ」と言われたものをサイズに合わせて買った。

 時間にしておよそ、半時間程。

 メールを確認してみるとゲーセンにメッセージが来ていたため向かう。

 そして、ゲーセン付近で人生初のナンパにあった。

「ねぇ、君ら〜!可愛いねぇ!今暇?良かったらスタバ奢るから行かない?」

 お茶しない?ではなく〝スタバに行かない?〟と聞くのは現代って感じがした。

 あと、ここは大型ショッピングモールの中で、周りには人が居る。こんなところでナンパとかどんだけ肝座ってんだよ。

 「へぇ、ナンパってこんな感じなんだァ〜」と思いながら、その誘いを拒否する。

「結構です、お断りします」

 碧が彼らに伝える。

「いや、彼氏いるので……困ります、やめてください」

 然し、ナンパする度胸があるだけあって一言では引かず言葉を紡げる。

「いや、いいじゃん〜??1度や2度くらい。彼氏君も許してくれるよ〜」

 「そういう問題ではないけどね?」と考える。

 突然、彼らは周りに人がいるのにも関わらず僕たちの手首を掴む。まぁ、普通に考えたら……そう、黒だよね。

 その時だった。

 その場に夜が来て、彼らに向けて告げる。

「俺の女に何、ちょっかいかけてんだ?殴られたくなきゃ、さっさと失せろ」

 ガタイが良く、威圧的な顔をしている夜がそう言うと、彼らは逃げるようにその場を後にした。

〝俺の女……〟は明らかに碧に向けられたものだろうけど、この脳筋、よくそんな言葉言えるもんだなと感心する。

 そして、碧が肘で夜の横腹を突きながら口にする。

「さっきの夜、めっちゃかっこよかった!」

 その言葉に頬を赤らめながら照れる夜。そして、満面の笑みで嬉しそうに微笑む碧。

 その光景をただ帰り道で眺めて思う。

「一体、僕は何を見せられているのだろう」と。

 その後、碧から電話があった。そして、夜のことを数時間永遠に語られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る