第20話 思い出
その横顔を見ていて、思い出してしまった。
箱崎くんのこと。
高3の、まだ部活をしていた頃。
調理部でドリアを作った。
でも、ご飯を炊きすぎてしまい、みんなで残ったお米をおにぎりにして、持ち帰ることになった。
教室に戻ると、窓際の席で箱崎くんが本を読んでいた。
箱崎くんは背も高いし、ついこの間行われた球技大会でも活躍して、女の子達にキャーキャー言われていたくらい運動神経がいい。
でも、なぜか帰宅部だった。
受験生だからというわけでもないみたいで、箱崎くんが部活をしていたという話は誰からも聞いたことがない。
だから用もないはずなのに、よく放課後教室に残っていた。
「何読んでるの?」
声をかけると、箱崎くんは顔を上げて優しく微笑んでくれた。
読んでいる本を覗き込んだ。
「『ニュートンのりんご、アインシュタインの神』? 難しそう」
「図書館にあったから借りてみたんだけど、そんなに難しい本じゃない」
「ねぇ、おにぎり食べる? 調理部でミスって、お米炊きすぎたからおにぎりたくさん作ってね。具は、塩昆布とツナ。食べないとどっちかわかんないけど」
「食べる」
「どうぞ」
わたしからおにぎりを受け取ると、箱崎くんは嬉しそうに食べてくれた。
「これ、塩昆布だった」
「それは、良かったって意味?」
「おにぎりの具の中では塩昆布が一番好きなんだ」
箱崎くんが笑ってくれた。
「塩昆布だ」
その声にハッとして、鴨白さんの方をもう一度見た時、彼が言った。
「おにぎりの具の中では塩昆布が一番好きなんだ」
同じ言葉。
箱崎くんの言ったことは、今でも忘れずに覚えている。
だから、一瞬ドキッとしたのは、箱崎くんのことを思い出したから。
鴨白さんが、笑顔を見せたからじゃない。
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