第18話 バレバレ
「鴨白さん、もしかして、また会社に泊まったんですか?」
「昨日、クライアントと飲んでる途中、仕事のことで思い出したことがあって、ここに戻ったとこまでは記憶にある」
そこで優木さんがわたしの方を向いた。
「わたしが朝来たら、鍵は開いてるし、書類みたいなのがそこらじゅうにバラ撒かれてて、床に鴨白さんが倒れてたから……強盗でも入ったのかと」
「それでこれは?」
座ったままの鴨白さんが、自分の上にかけられていたわたしのコートとストールを指差した。
今はその場に座っている鴨白さんの膝の上にぐちゃっと無残に重なっている。
「近づいたら、冷たいけど生きてるのがわかったから、110番か119番に電話する前に、少しでも温めようと思ってかけたんです」
「大袈裟な」
「そんなことないです! わたしの――」
言葉に詰まった。
「父親?」
「はい……朝、わたしが起きてキッチンに行った時に、父が床に倒れてるのを見つけたんです。冬だったから、体は冷たくなっていて……」
「もういい。悪かった」
鴨白さんは立ち上がると、優木さんにコートとストールを渡し、わたしの頭をポンとたたいた。
わたしは優木さんに手を借りて立ち上がると、コートとストールを受け取った。
「一回帰ってシャワー浴びてくる」
そう言って鴨白さんが出て行った後、優木さんが言った。
「口紅、直しておいで」
急いで、廊下の女子トイレへ行って鏡を見ると、口紅がこすられたようになっていた。
あのキスのせいだ。
「何があったかバレバレ……」
それでも、いきなり鴨白さんにキスされたことより、気になっていたのは、彼が言った言葉の方だった。
『許して』
その言葉は、誰に、何の許しを乞うためのものなのか……
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