第17話 事故

「何って、警察か消防に電話を……」

「バカなのか?」

「でも、鴨白さん強盗にあったんじゃ……」

「ちょっと寝てただけだろ?」

「寝てた? こんな床で? ソファだってあるのに? 暖房も入れないで? どうして?」

「ギャンギャンうるさい。飲みすぎて記憶にない」

「何なんですか! 心配したじゃないですか……何かあったのかと思って……倒れてるから……」


気がついたら、自分でも制御できないくらい、泣いていた。


「呼んでも返事がないから……触ったら冷たいし、怖くて……良かった……何もなくて良かった……」

「悪かった」


それでも、子供みたいにベソをかいていたわたしを、鴨白さんは突然、抱きしめた。


「泣くな」

「……無理です。生きてるってわかったから……安心して……どうしようかと思った」

「黙れ」

「どうしたらいいのかわからなくて……このまま目を覚まさなかったら……わたし――」


今度は、鴨白さんに、口を塞がれた。


それを、別の、もっと違う言い方をするなら、キスをされた。


何が起きたかわからないで無抵抗でいるわたしを、鴨白さんは更に強く抱きしめながら、キスを続ける。



「おはよーございます」


その声で、我に返って、鴨白さんを押し除けた。


「2人して、何で床に座ってるんですか?」


優木さんが呑気な顔をして、鴨白さんとわたしを見下ろしていた。

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