第16話 何を?

朝晩が随分寒くなってきた。


誰かが出社する前に事務所を暖めておこうと思い、早めに出社してドアに鍵を差し込んだところで、ドキリとした。

施錠されていない。

昨日、確かに施錠した記憶がある。

一緒に優木さんもいて、それを見ている。


泥棒?


ドアを開けると、部屋の中は冷たい空気に包まれていた。

足元には、A4の紙が散らばっている。

それを拾いながら、中へと進んで行くと、真ん中に鴨白さんが倒れているのを見つけた。


いくらカーペットが敷かれているからといって、所詮業務用のもので、毛足も短く、床の冷たさを半減させるほどのものじゃない。

だから、こんな所に寝ているとは思えない。


「鴨白さん? 鴨白さん!」


駆け寄って声をかけたけれど返事がない。


「鴨白さん、返事してください!」


生きているのか確認するために、脈を取ろうと思い手首を掴んだけれど、よくわからない。

でも手は冷たくなっていた。

それで頬にも手を当てると、頬も氷のように冷たくなっている。

息をしているのかどうか、鴨白さんの顔の近くに自分の耳を近づけた。


その時、鴨白さんから小さな声が漏れた。



「……許して」



許して?

何を?


取り敢えず生きてることはわかったので、自分が着ていたコートを上にかけた。それだけだと長さが足らないので、上半身はストールで覆った。

それから暖房を最強にして、鴨白さんのそばへ座った。


「待っててくださいね。すぐに助けを呼びますから」


聞いているとは思えない鴨白さんに向かって言葉をかけ、スマホをカバンから出すと、110と119どちらへ先に電話をするべきか少し迷った。

その時、手首を掴まれた。


「何やってる?」


上半身を起こした鴨白さんが、わたしを見ていた。

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