第14話 冷たい目

頼まれた紙ベースのデータをPCに入力していると、髪の毛を引っ張られる感覚があって、その引っ張られている方を見た。


鴨白さんがわたしの髪の毛を一房掴んで、その指先でくるくると巻きながら、そのきれいな顔でじっと見ている。


「それはわたしの髪だと思うのですが」

「距離はとってるし」


特に何も言われなかったし、邪魔にはならなかったから、長い髪をおろしていた。

それを鴨白さんが一房掴んだまま離さないでいる。

一体何がしたいのかわからない。


「仕事の邪魔です」

「髪の毛で仕事をするのか?」


その言葉に、無言で鴨白さんが掴んでいる髪の毛を引っ張った。

そしてポケットの中に入れていた黒ゴムを取り出して、髪の毛を少し低めのポニーテールにして結んだ。


「つまらない」


そう言うと、鴨白さんは、自分のPCに向き合った。


このまま静かに仕事をしていたかったけれど、必要に迫られ話しかけた。


「あの」

「何?」

「数字、間違ってるところがあるんですけど」

「入力しながら中も見てた?」

「ごめんなさい」

「いや、それは別にいい」


鴨白さんがわたしの真後ろから、顔を近づけて来た。


これは、仕方がない……よね?


「どこ?」

「3個目のグラフの――」


わたしがマウスを持つ右手に、鴨白さんがデスクの上に置いた手が触れている。


たまたま、だよね?


「助かった。他にも見つけたら教えて」

「はい」


鴨白さんの気配がなくなってしばらくしてから、そっと隣を見ると、自分のデスクに肘をついて、足を組んだ状態でじっとこっちを見ていた。



何を考えてるんだろう?

この人、仕事してるのかな?


いつも人がいなくなると、こんなことが多い。



優木さんは知らないんだ。

「女の子の方が鴨白さんに言い寄ってきてクビにする」と言っていたけれど、こういう態度を勘違いする女の子がいることを。

こんなふうにちょっかい出してばかりいるから、女の子は鴨白さんを好きになっちゃうんだ。



でも、わたしは決して勘違いなんかしないし、好きになることはない。


だって、鴨白さんがわたしを見る目は、いつも氷のように冷たいから。

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