第13話 わからない
「どうして一人暮らし? 実家にいた方が奨学金返すのも楽だろ?」
これは面接の続きですか?
優木さんが出かけてしまい、事務所に2人きりになると、鴨白さんはまた質問を浴びせてきた。
「そうなんですけど、母が再婚して。義父になった人が嫌な人とかそういうんじゃないんです。ただ、向こうにも子供がいて、それが同じ年の同性で、ちょっと……合わなかったんです。妹のことは可愛がってくれるし、母とも仲良くて、わたしだけがうまくやっていけなかったから、家を出たんです」
「ふうん」
「わたしのことは放っておいて、お仕事してください」
「今乗り気じゃないから」
ZEROplusは設立から5年の小さなデザイン事務所だった。
わたしは仕事内容と給与しか見ていなくて、業界のことも全く無知で、今思えばよく図々しくも応募したものだと、その無謀さに恥ずかしくなる。
代表を務める鴨白雅哉は涼しそうな顔をしているイケメンで、どことなく箱崎くんの面影がある。
名前も箱崎くんと同じ「雅哉」。
初めてその目を見た時、もしかして……
一瞬、そう思ったりもしたけれど、絶対に違う。
きっと、面接で箱崎くんのことを思い出させるようなことを聞かれたから、そう感じただけ。
わたしが重い蓋をしていた記憶を、目の前の鴨白雅哉が呼び戻したせい。
箱崎くんは、誰とも争うようなことはなかったし、物静かな物言いをする人だった。
それに、箱崎くんには、いわゆる涙ぼくろがあった。
鴨白雅哉にそのほくろはない。
そもそも年齢が違う。
会社案内に、鴨白さんは東王藝大卒と書かれていた。
ということは、大学を卒業してすぐに起業したとしても、会社設立から5年だから、少なくとも彼は27歳より上ということになる。だから、わたしよりは年上。
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