第12話 意外
事務所の入っているビルのエントランスを出ると、すぐに冷たい風がビューっと吹いてきて、冬を感じさせる。
「ビルとビルの間だから、この辺は風が強いんだよね。夏はアスファルトの照り返しで熱風だし、秋からはもう寒くて。こういうの何て言うんだったか……」
「ビル風ですか?」
「そう、それ!」
話をしながら、事務所から少し離れた先にある、ビルの1Fに店舗を構えるパスタのお店に入った。
「事務所にみんなが揃うことは、滅多にないから」
「そうなんですか?」
「何も聞いてない? うち、各自が仕事の進行状況に合わせて出社して帰社するから。クライアントによっては、直行直帰の場合もあるし」
「初めて聞きました」
「全員のスケジュールを見るには、モニター右上の方にカレンダーのアイコンがあるから、それをクリックして。でも、電話がかかってきた時に相手に行き先は言わないように。あくまで社内の人間だけが把握するためのものだから」
「わかりました」
「これは、プチ歓迎会ということで、何でも好きなもの食べて。僕の奢り」
「ダメです、そんなの」
「まぁ、ランチくらい格好つけさせてよ」
優木さんがあまりにも笑顔なので、甘えさせてもらった。
この人何歳くらいなんだろう?
見かけはわたしより下に見えるんだけど……
「ありがとうございます。ご馳走になります」
パスタのセットを注文した後、優木さんはまた話始めた。
「頼むからやめないでよ」
「それって?」
「みんな続かないんだ」
「パワハラで? それともセクハラ?」
「え? 僕? なれなれしくランチに誘ったから?」
「違います! 優木さんのことじゃないです!」
「もしかして鴨白さんのこと言ってる? あの人、仕事はきっちりやるし、尊敬できる人だよ。セクハラはよくわからないけど、女の子の方が鴨白さんに言い寄ってきて、使用期間中にクビにするパターンが多いんだよね。男性を雇おうともしたんだけど、全然応募がなくて。だから待遇やたらいいでしょ?」
「そうですね。経理を含む事務全般と雑務でこのお給料は魅力的です」
「今朝の様子だとうまくやっていけそうだね」
「聞いてたんですか?」
「声かけづらくて」
「ひどい」
「実際どう? 大丈夫そう?」
「多分」
「実は、朝少し驚いた。沙羽ちゃんは何だか今までの子とは違うみたい」
いい意味で?
悪いい意味だよね……
「食べよう! いただきまっす!」
優木さんはテーブルに運ばれて来たサラダを食べ始めた。
「沙羽ちゃんも、食べて」
「はい。いただきます」
でも、ちょっと、意外だった。
鴨白さんのせいで辞めるんじゃなくて、女の子の方が鴨白さんに言い寄るからクビにされるって。
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