第8話 その後で

事務所の入っているビルを出たところで、トレンチコートを片手に持ったまま、力が抜けてしゃがみこんでしまった。


もっと、謙虚な受け答えをするべきだった……

あれじゃあ、まるで言い争ってるみたい。


給与が良くて福利厚生もしっかりしていて、副業OK、今住んでるアパートからも近い、こんな好条件な会社、きっともう出会えない。



「大丈夫? どこか具合でも悪い?」


見上げると、さっき面接の時に一言も話さなかった男性が、心配そうにこちらを見ていた。


「大丈夫です」

「ここは風が強いから、コート着ないでいると風邪ひいちゃうよ」


立ち上がるために手を差し出され、素直にその手をとった。


「さっきうちの会社に面接に来てた人だよね?」

「はい」

「ZEROplusでデザイナーをやってる優木です」


面接の時、彼は名乗らなかったから初めて名前を聞いた。


「カバン、持ってるからコート着て」


あまりにも自然にカバンを持ってくれたので、急いでコートを着た。


「ありがとうございます」

「さっき、びっくりした。鴨白さんがあんなに質問するの初めて聞いたから」

「誰にでもそうじゃないんですか?」

「違うよ。いつもはもっと淡白。採用決まるといいね」


返事の代わりに頭を下げた。



とても採用されるとは思えなかった。


次はもっとちゃんとした受け答えができるようにしないとダメだ。

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