第7話 面接

「ZEROplus代表の鴨白です。皆さんには、2、3質問させていただきます。答えたくない質問には答えなくてもいいですけど、選考に左右するということは覚えておいてください」


目の前に座っている男がデスクに肘をついたまま言った。

ずっと険しい顔をして話しているこの男が、この会社の一番偉い人。

俳優にでもなれそうな整った顔。

こんな風に眉間に皺を寄せて睨みつけてなければ、きっとモテるはず。

それとも、それがわかってるからわざと不愉快そうな顔をしてる?

男の横には、親切そうな男性が座っているけれど、ニコニコしているだけで一言も話さない。



「まず最初に、――さん、『経理の経験あり』とありますが、具体的にどこまでできますか?」

「はい。前職では――」



2週間前に仕事を失い、新しい仕事を探している時にこの会社の求人を見つけた。

採用条件は「経理ができる人」。

経理は前の会社でやっていたから経験がある。

それに働いていたのは従業員が50人にも満たない規模の会社だったから、経理以外にも、Excelやwordでの文章やデータ作成に加え、営業に頼まれればPowerPointでプレゼンの資料も作っていた。

だから、そのことを具体的にアピールする練習をしてきた。



「じゃあ、次は柚木沙羽さん。この、高校卒業してから大学に入るまでの、2年のブランクは何? 浪人? それにしては大した大学じゃないけど」

「高校3年の時に、父が脳梗塞で倒れ寝たきりになりました。それで母が仕事を始め、妹は中学生だったので、わたしが父の介護をしていました。2年後、父が亡くなり、奨学金を借りて大学に進学しました」

「幸せだった家族が崩壊してどう思った?」

「そんなふうに考えたことはありません。突然のことでとまどったのは確かですけれど」


集団面接のはずなのに、他の2人に比べて、心なしか、わたしへの質問だけ厳しい?

それでもわたしは、さっきから張り付いたような笑顔で、この男の質問に答えている。


「これまでの人生で一番後悔していることは?」

「それは、採用に必要な質問なんでしょうか?」

「一緒に働くなら、何に感動して、何を良しとして、何を悪と見做すのかを知りたい」



この突き刺すような目の意味をわたしは知っている。



「高3の冬に、大切な人を失いました」

「亡くなったの?」

「違います。わたしが、あまりにも子供で、愚かだったせいで、傷つけてしまったんです」

「そいつ、もう君には会いたくないと思ってるだろうな」



答えられることを適当に言えば良かった……

それは無理か。


わたしが今でもずっと後悔し続けていることは、ひとつしかない。

もう、このことだけは嘘を重ねたくない。



この男は、あの時の箱崎くんと同じ目でわたしを見る。

冷たい、突き放すような目。



「副業希望の欄に⚪︎がついてるけど、具体的に何やるの?」

「手作りアクセサリーの販売です」

「どういう販路で?」

「今は、イベントに出展したり、販売サイトで売っています」

「それに意味はあるの?」

「意味があるかないか決めるのはわたしです」

「ふうん」



他の3人みいたいに、仕事に関する質問はされなかった。

されたのは、言い難いことや、業務に関係ないと思う質問ばかり。



「結果は追って連絡します。ご苦労様でした」

「ありがとうございました」

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