第4話 特別

「アレのことなんだけど」


それだけで、箱崎くんが何を言おうとしているのかすぐにわかった。

それだけ鮮明な記憶として頭にこびりついている。


「い、言わない! 誰にも言ってない!」

「そう」


箱崎くんはそれ以上何も言おうとしなかった。

その表情からは何を考えているのか読み取れない。


「でも、先生と恋愛とかドラマみたいだね」


沈黙が怖くてバカみたいなことを言ってしまった。

それで、さっきまで普通に見えた箱崎くんの顔から表情が消えた。


「そんなふうに見えた?」

「えっ? あ、うん」

「君は、幸せな家庭に育ったんだね」

「幸せ? いつも怒ってばっかのお母さんと、休みは寝てるだけのお父さんに、生意気な妹だけど」

「それを、幸せって呼ぶんだよ」

「そっか、そうかもね」


箱崎くんは立ち上がると言った。


「君は、特別に無料タダでいいよ。したくなったら言って」



それって……


箱崎くんの言葉の意味を、何度も何度も考えたけれど、同じ結論にしかならない。


でも、それを言葉にすることはできなかった。



代わりに、公園の中を通って、反対側の道路に向かう箱崎くんの後姿を見続けた。

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