第3話 試験

昨日は家に帰っても試験勉強どころではなく、教室で見た箱崎くんと榊先生の姿や、その声が頭から離れなくて、夜も眠れなかった。


世界史のプリントも数枚なら誰かに写真を撮って送ってもらったけれど、さすがに20枚もあるものを、試験の前日には頼めないと思った。

だから学校に忍び込んだのに、肝心のプリントは持って帰れなかった。


よく考えたら、何人かにわけて送ってもらえば良いことだった。

そんなことも思いつかなかった。

いろんなことがどうかしていた。

何もかもどうかしてる。


その結果がこれ。



窓際の席に座って、何事もなかったかのように問題を解いている箱崎くんを見ていると、自分は夢を見たのではないかと思ってしまう。


でも、試験問題を配る榊先生を見ると、前日のあの姿が脳裏に浮かび、その息継ぎを耳にしたら、あの声を思い出してしまい、もうダメだった。


アイドルの誰々が可愛いとか、そんな話で無邪気に盛り上がっている山下くんの机が昨日使われてたやつだと思うと、彼の笑い顔が不憫に思えてしまう。


試験は散々な出来だった。




「中間考査、やっと終わったね」

「どこ行く?」

「ごめん、わたしパスで」

「なんで?」

「ちょっと……帰って寝たい」

「え? あ、そう。私達行くけど?」

「うん。2人で行って。ごめん」


いつもだったら、「受験生だってたまには息抜きが必要だよね」なんて理由をつけて、試験の最終日の後は友達とカラオケに行って、パーッと騒いで楽しんでいた。

でも、とてもそんな気分にはなれない。


正門のところで友達と別れて、家に向かってぼんやりと歩いた。


学校から家まで徒歩15分。

自転車通学が許可されない距離。

バスに乗るほどでもない。


夏の間は家に帰るだけで暑くて倒れそうだった。

ようやく涼しい季節になって、学校では長袖のブラウスの上に、セーターかジャケットを着るようになった。


家の近所の公園まで来たところで、公園の入り口に設置してある逆U字型の鉄の柵に、箱崎くんが座っているのに気がついた。


箱崎くんもわたしに気がついて、にっこりと微笑んで言った。


「待ってた」

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