第3話 夜襲

食事を終えると、二人は眠る事にする。

咲也は風呂はないのかと聞いたが、無いという返答であった。どうやら、近くの川で体と衣服を洗うらしい。

夜は遅く、外は真っ暗な為、流石に今からはお勧めしないということらしい。

冬場はどうするのかと聞いたが、入らないとの返答であった。

道理で少し、幻次郎の体臭が気になると咲也は納得したのだった。


「おい、起きろ!」幻次郎が咲也の体を軽く揺さぶる。

「えっ、何!?」咲也は、驚き声を出す。

「声を出すな。夜襲だ」幻次郎は咲也の口を軽く塞ぐ。

「夜襲?」幻次郎の手を掴んで、離すように即した。確かに、人の気配がする。

「きっと、お前の追っ手だ。後を着けられたみたいだ」囁くような声を出しながら、近くの棒を手にした。

「阿僧祇は使わないの?」咲也は阿僧祇に目をやる。

「無用な殺生はしたくないのでな」どうやら逃げる選択はなく、夜襲の相手を返り討ちにする気のようだ。

足音が近づいてくる。その音が止んだ瞬間。家の扉が勢いよく開いた。男が仁王立ちで立っている。その刹那、幻次郎は、まるで獣のような反射神経で飛びかかり、男の鳩尾に棒をめり込ませた。

「グエ」声にならない嗚咽をあげて、男は前のめりに倒れた。

「この野郎!」後ろに待機していた、別の男が真剣を抜き身構えた。

「幻次郎!」咲也は、刃の輝きを見て思わず阿僧祇を掴み、幻次郎に渡そうとするが、重すぎて持ち上がらず、顔を歪めた。

「阿僧祇に出番はない!」幻次郎は、踏み込むと、刀を振り上げた男の喉元を、拳で殴った。男は刀を振り下ろす事が出来ないまま、喉を押さえて悶絶する。どうやら声を出せなくなったようだ。幻次郎は男の前に片肘を着くと、掌で男の胸を叩いた。そのまま、男は気を失い倒れた。「まだ、やるか?」幻次郎は暗闇を睨みつけた。

「覚えてろよ!また来るからな!」暗闇から現れた仲間達が、倒れた二人の体を担ぐと逃げていった。

「ごめん、俺のせいだ」咲也は申し訳なさそうに下を向いた。

「そうだな。だが、仕方ない。しばらくこの家は空けておこう」幻次郎は囲炉裏に火を灯すと、荷物をまとめ始めた。

「そんな……」

「乗りかかった船だ。お前を安全な所まで送ってやる」最後に阿僧祇を腰に差した。

「いいのか?」

「ああ、お前に何かあったら後味悪いからな。まあ、お前の飯は旨いから、また食いたいしな」幻次郎は人差し指で頬をかいた。

「なに、それ」咲也の顔から緊張が消えて、微笑みが溢れ落ちた。


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阿僧祇(あそうぎ)0.5バージョン 上条 樹 @kamijyoitsuki

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