第12話 盛者必衰の理

 そうか───……。

 

 俺は悲しみのあまり目が潤んだ。


 うちの会社の会長はブラックの権化ごんげだ。RPGでいうとボスを倒した後に出てくる真の大ボスのような存在だ。

 俺たちを安月給で長時間コキ使い、利益を吸い上げる極悪非道の冷血漢だが、そんな大罪人でも、やはりひとりの人間がボケて正気を失う様には諸行無常を感じずにはいられなかった。


 会長───。フォーエバー。


 俺は心の中で合掌し、チーンとおりんを鳴らした。


「ま、まって下さい、皆さんっ」


 そう声を上げたのは箱音はこねさんだった。


「どうやら女性の下着を探すのにはワケがあるそうですっ」


 そのワケには箱音さんも驚いた様子だった。


「聞いて下さい、皆さん。会長にはご正妻の他に47人の愛人がいますっ」


 おいおい、なんだ? 突然、会長の不誠実な女たらしの話になったぞ。俺はワンターン、箱音さんの発言を聞き逃したか?

 それも47人か。BMS47(ブラックマンジュウシスターズフォーティーセブン)というグループ名が突如として俺の脳裏に閃いた。


「その愛人すべてとの間に子を設けておられますが───」


 マジか。とんでもない繁殖能力に俺は腰を抜かしそうになった。


「───ですが一番大切にされているのは、やはりご正妻とのご縁繋ぎである孫娘さんです」


 会長の孫娘?

 ということは会長の後を継いでうちの会社の取締役をしている社長の娘ということか?


「実はその孫娘さんが先日、この温泉旅館を訪れ、そして事故に遭われてしまいました」


 ───なんだとっ!?


 会長の孫娘がこの温泉旅館を訪れていたことも驚きだが、事故に遭ったということにも俺は驚いた。

 温泉は人々が癒しを求めて訪れる休息の地だ。そんな聖地で痛ましい事故が発生してしまったなんて残念でならない。

 俺は本心から事故に遭ってしまった孫娘に同情した。


「幸い、一命はとりとめましたが、今も意識不明の重体で、集中治療室で治療を受けています」


 そうか。それは予断は許されないが、不幸中の幸いだ。

 なんとか快方に向かって欲しいと俺は祈らずにはいられなかった。


「そんな孫娘さんのお見舞いに訪れた会長ですが、その日から異変が起こり始めたそうです」


 なるほど。異変か。

 俺はそれがどんな異変なのか少し興味が湧いた。


「その異変とは、なんとその孫娘さんが会長の枕元に現れるようになったということです」


 ───孫娘が枕元に現れる?


 それは不可思議な事だが、孫娘はまだ死んでいないのだろう? それで枕元に現れられるのか?

 そういえば生きた人間でも思いが強いと思念が霊となると聞いたことがあるな。

 確か「生霊いきりょう」という奴だ。

 なるほど、異変というのは孫娘が生霊となって枕元に現れるということか。確かにそれは異変に違いないな。


「そして枕元に現れた孫娘さんはこう仰るそうです。

 温泉旅館に下着を忘れたので、それを見つけて欲しい。見つけてくれないと死んでも死にきれない。と───」


 なるほど。温泉旅館に下着を忘れたことが気がかりで生霊になってしまった、と。


 正直、俺はなんとも残念な理由で生霊になってしまったなと思ったが、いや、だがしかし、女性にとって下着は大切なものだ。そして人に見られたいものでもないだろう。


 生霊になってまで訴えるべきかはわからないが、そういうことなら探してやらんこともない。

 俺は先の同情の念もあって、下着探しを手伝うことにした。

 まあ、どうせ他にやることもないんだ。丁度いい暇つぶしにもなるだろうしな。




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【後書き】


 ここまで読み進めていただきましてありがとうございます。

 (⋆ᵕᴗᵕ⋆)ウレシイデス


 さあ、いよいよ探し物の開始です♪

 以後も、皆さまに「面白い!」と思っていただけるように頑張ります!

 (๑•̀ㅂ•́)و✧

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