第11話 会長と幟別箱音
会長は御年97才のご老体で、社長職を退き、会長職に就いてからは現場に姿を現わさなくなったが、今でも経営には
今ではすっかりお爺ちゃんだが、若かりし頃は社員の先頭に立って獅子奮迅の如く働き、うちの会社を饅頭の製造・販売で全国一の企業に育て上げていた。
そんな会長の傍らにいるのは総務の
「皆さん、お疲れ様です。総務の
会長より皆さんにお言葉がありますので、ご清聴の程、宜しくお願い致します。
それでは会長、お願いします」
箱音さんにマイクを向けられると、会長は「フガ…フガフガガ……フガー」と何かを仰った。残念ながら会長はもう「フガフガ」としか言えなくなってしまっているのだ。
「会長は皆さんが無事、温泉旅館に到着して良かったと申されています」
そんな会長の「フガフガ」を箱音さんが通訳した。
「フガフガガガ……フガフガフガのフガフガフガー」
「えー。今回の温泉旅行は社員の皆さんの日々のご精勤に感謝の意を表し、会社が経費で旅行代を賄っています。費用はビタ一文たりとも無駄にできないので、旅行に来たからには全力で旅行を楽しみ、心身の疲れを癒し、月曜日からの業務にあたって欲しい。とのことです」
なぜ箱音さんは会長の「フガフガ」を理解できるのだろうか?
そんな些細な疑問はさておき、相変わらず会長のお言葉は一方的だな。
つまり旅行に連れて来てやったんだから感謝し、そして月曜日からの激務をこなせという訳だ。
だがこうしたお言葉はいつものことだ。もはや内容は定型化している。そして言いたいことを言ったら去るのがいつもの会長だ───。
───が。
この日は珍しく、会長の言葉には続きがあった。
「フーガ、フガ、フガガガガ。フガフガフガのフガー」
「えーっと、もうひとつ。それとは別に社員の皆さんにやって欲しいことがあります」
「フガフガフガガ、フガ、フガガ」
「それはある物がこの温泉旅館にあるので、それを探して欲しい、とのことです」
探し物?
一体、何を探せというのだ?
「フガ、フガフガのフガー」
会長が探し物がなんであるかを告げたようだが、それを聞いた箱音さんは「ええっ? か、会長、そ、それは本当ですか……?」と困惑した様子だった。
「えっと…皆さん。皆さんに探して欲しいある物は……。
それは───……。───そ、それは……」
言い難そうだな。
いつもハキハキと発言される箱音さんにしては珍しい。
躊躇していた箱音さんだったが、咳ばらいをして意を決すると、その探し物が何であるかを告げた。
「それは、
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【後書き】
私の小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。
(⋆ᵕᴗᵕ⋆)ウレシイデス
因みに会長のお名前は「湯府院 夏呂(ゆふいん げろ)」です。
もうお気づきとは思いますが、登場人物の名前は有名温泉地からいただいております。
そしてついに探し物の正体が明らかになりました。
「意外な物だった」と思っていただけたなら幸いです。
(⋆ᵕᴗᵕ⋆)
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