~4~ 錬金術国家へ Ⅰ
錬金術国家ニルドネア王国は、サヴァール王国と国境を接し、農作物を輸入している国の一つだ。
サヴァール王国は、『
その作物を食した者には、少なからず加護に似た力が備わる事もある。
ゆえに、農作物の輸出は、同盟国に限定される。
ニルドネア王国の一部の国民には、錬金術を使える者がいる。
この世界の錬金術は、道具に術を施し、その道具を更に便利にする、というものだ。
一番人気がある錬金術具は、眼鏡である。
眼鏡のレンズを、個人個人に合わせて加工する技術は、まだないこの世界で、錬金術具の眼鏡を掛けるだけで、誰でも視力が強制されるのだ。
レンズに刻んだ錬金術の陣が、その様な効果を齎す、詳細はニルドニアの国家機密である。
錬金術国家ニルドネアの輸出品として、錬金術が付与された道具は、高値で取引され、国の経済を潤わせている。
海に面した錬金術国家ニルドネアは、潮風による塩害を防ぐ為に、建築物には塩害防止の錬金術を施した、石を建材として使われている。
その街並みは、まるで、アルメイル達が前世のテレビで見た、フィレンツェの街並みの様だ。
「うわぁ、街の雰囲気はイタリアみたい!」
アルメイルは膝丈のハーフパンツ、膝下までのハイソックス、シャツの上にはベストを着用し、歩き易く、お気に入りの皮靴を履き、キャスケットで髪を覆えば、第一王子には見えない。
この姿なら、この国にも馴染むと思ったが、すれ違う人々からの視線が、こちらに向いていて、アルメイルは落ち着かない。
人々が振り返る理由は、明らかに、アルメイルを挟んで歩く、彼女と彼?だ。
(目立ち過ぎです!
お姉様とそのお隣にいる、褐色銀髪のめちゃかっこいい
人間ではない貴方!!!)
アルメイルは、口には出せない叫びを飲み込むと、隣を歩く《彼》を見上げる。
そう、《彼》は人の姿をしているが、人ではない。
キュイ王女が、城下や城内、そして今回の様な他国への訪問の時などに、人型の姿をとる、アースドラゴン、名前をソアという。
これは、キュイ王女が付けた名で、ソアも気に入っているらしく、その名で呼ぶと、とても嬉しそうに返事をしてくれる。
もっともそれは、キュイ王女が溺愛している双子にのみ、なのだが。
「アルメイル、いたりあって?」
(しまった!!)
つい、テンションが上がって、口に出てしまった、アルメイルは
「なんでもない!」
と笑って誤魔化した。
今回アルメイルは、錬金術国家ニルドネア王国へ行って、錬金術を学びたいと、父と母に駄目元で、強請ってみた。
すると、ニルドニアの王子と交換留学という形で、叶ってしまったのだ。
交換留学という概念が、この世界にある事に驚きはしたが、アルメイルは確認しなければならないのだ、錬金術国家ニルドネア王国に、あの人が存在するかどうかを。
(キュイ姉様が、完全装備でついてきちゃうって、どういうこと??)
守護騎士が計六人に、キュイ王女がいる、となる戦力過剰なのではあるまいかと、アルメイルは思った。
(本気になれば、首都どころか国を……いやいやいや、
我が国は、同盟国には友好、友好!!!)
アルメイルを守るように、両脇を歩くキュイ王女とソア。
守護騎士達四名の内、国外仕様の制服を着用した二人は、アルメイルとキュイの後方と前方を、残り二人は少し離れた位置でサヴァールの守護騎士とわからない服装で、それぞれが警護している。
アルメイルはニルドネア王国へ入国後、その足で王城へ赴き、ニルドニア国王へ挨拶し、その後、お忍びで城下を見学させて貰っている。
その為、ニルドネアからの警護も付いており、お忍びなのに、お忍びっぽくない、全くないのである。
この世界には、写真は無いから、アルメイルは王族として、人目を気にすることは無い、はずだった。
(目立ち過ぎる)
両脇で歩き並ぶ、キュイとソアが、肩を落としたアルメイルに、気付いた。
「どうしたの?」
「このまま、錬金術の学校へ行くのは、勉学に勤しむ、ニルドネアの人達に迷惑だなあと思いまして……今日は止めます」
「私は構わないけど、じゃあ、あの店のケーキを買って、城でお茶しましょう」
キュイが目を向けた先に、人が並んでいるケーキ店があった。
「キュイ様、私共が買って参ります、お先に城にお戻り下さい」
あの列に、王族を並ばせるわけにはいかないと、ニルドネアの護衛の一人が、キュイに申し出た。
「ここは有難く、お願いしましょう、キュイ様」
「そう?全種類……は食べられないから、この国の果物を使ってあるケーキを、お金は…」
「キュイ姉様、これを」
アルメイルは財布を取り出し、ニルドネアの銀貨を渡す。
(王族なのに、つい、前世の習慣で、財布を持ってきちゃったよ)
「流石、アルちゃん!!」
こうして、無事、ケーキをお願いして、彼らはゆっくり城下を散策しながら、ニルドネアの城へ、引き返すことにした。
(アルメイル様だけでも、十分に生徒の注目を集めそうなのに、キュイ様は他国でも、大人気だから助かった)
と護衛騎士達は内々に思った。
(どうも王族の方達は、ご自分の知名度を軽んじておられる)
と小さく溜息を付いたのは距離を置いて警護している守護騎士だ。
自分達を守っている彼らが、その様に思い安堵しているとも知らない、王女と王子と、人に擬態していても、その神格級を隠せていないアースドラゴン。
「キュイ姉様はどうして今回は一緒に来たのです?」
歩きながら、アルメイルは、まだ聞いていなかったなあ、とキュイに尋ねた。
「アルちゃん、もっと砕けて話して!」
「アルちゃんはやめて下さい、キュイ姉様」
(キュイ姉様は、本当に見た目と性格が違うな
かなり度を越した、とてつもないブラコンでシスコン)
キュイは騎士団の制服に袖を通し、国を護る仕事をしている時は、恰好良い王女なのになぁ、とアルメイルは苦笑する。
理不尽な死後、アルメイルが突然この世界に、転生と言う名で放り出された。彼女の存在に、アルメイルは幾度と無く、救われた。
今回もアルメイルは、彼女が傍にいてくれる事で、とても安心感があった。
「留学に同行した一つの理由、万が一の事があったら、アルちゃんを乗せて、飛んで国に帰る事が出来るから、ね、ソア♪」
「はい、キュイはアルちゃん様が心配と、国王の前で駄々をこねられました」
「ソア…、敬称がグダグダだよ、アルでいいよ
でもさ、僕なんかはソアにとっては、大事じゃないでしょ?」
自分の歩幅に合わせてくれる、神格級のアースドラゴン、人型の彼とこうやって話す機会は、あまりなかった。
「いいえ、キュイが愛する者達は、私にとっても大事な存在です
が、貴方は魂が可愛いので、私自身にとって……愛するべき存在です」
ソアの突然の告白に、
「えっ」
とアルメイルは歩みを止め、彼より数歩進んで止まった、ソアを見上げる。
守護騎士達も彼の言葉に驚き、口こそ開かないが、その目を大きく開いていた。
そんな中、キュイは当然の事だと、何故かドヤ顔をしている。
「えっと、その、有難うございます…」
想定外のソアからの告白に、アルメイルはなんだか恥ずかしくなり、わたわたとし、話を逸らす。
「じゃ、じゃあ、ソアにとってキュイ姉様はどういう存在なのですか?」
召喚されているのだから、やはり主とかなのかな、と思いながら、アルメイルは尋ねてみた。
「キュイは私にとっては母ですね」
アルメイルと、その会話を聞いていた護衛の守護騎士達、動きが止まる。
今何と言った?
自分達の、聞き間違えなのか?
その視線を一身に受けるソアは、小首を傾げ言う。
「どうされたのですか?
王城に戻るのでは?」
問い質しても良いものか、それとも『召喚』の加護では、普通の事なのか?とそれぞれが、ソアと母と言われた第一王女を見る。
「あー、うーんと、ソアの言う事は、そのまま捉えても構わないから、極秘に」
ソアの肩にポンと手を置くと、キュイ王女は極上の微笑みで、彼らを威圧した。
その質問を受け付けません、おわかりかしら?を含んだ笑みだ。
「「「「「・・・・・・・・わかりました」」」」」
一同は、了承し、従うしかない、のであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます