閑話 2 ~騎士達編~Ⅰ 第二王女・守護騎士サイス
俺は農村生まれだ。
サヴァール王国の、東に位置する故郷の村は、広大な果樹園で実る様々な果実が、村の農産物だった。
サヴァールは『
幼い頃、収穫の手伝いをしていた時に、村の果樹園の実りの視察に、国の宰相が、護衛の騎士団員数名と、訪れた事がある。
その時に、初めて見た騎士達の、農夫とは違う姿、身に纏う団服と、腰から下げている王から賜るという剣、何より、彼らの国を守る為の、立ち振る舞いに、目を奪われた。
その時、俺は騎士団に入りたいと思った。
幸いと言って良いのか、俺は農業に役立つ加護は、持たない次男だった。
俺は十五の時に、村から王都へ行き、一年間ある騎士の元で学んだ。
その後、騎士団への入団試験、その難関を見事に一度で合格し、一年の厳しい予備配属を経て、俺は無事に騎士団に入団出来たのである。
その時、俺は十七で、まだまだ未熟だった。
騎士団での国を守る為の様々な戦闘訓練や、加護を使いこなす訓練、そして騎士としての勉学に、俺は日々明け暮れた。
あっという間に三年が経ち、漸く騎士団員の制服が、自分に馴染んだと思える頃、突如、王族守護騎士へ配属辞令が下りた。
王族の守護騎士は、各隊の隊長格三人が推薦し、騎士総団長と副団長が、それまでの功績と訓練等、その者の加護の種類を鑑み、それを宰相に提出する。
査定後、守護騎士候補は数人に絞られる。
そして、最後に王に認められた騎士にのみに、守護騎士の辞令が下りる。
守護騎士に任命される事は、騎士としては誉れでもある。
王族。
騎士団に任命される時に、王から直々に剣を賜った時の俺は、かなり緊張し過ぎていたので、記憶がない。
王族というものは、それくらい、平民には馴染みがない、雲の上の存在だ。
地方の農民の出だった俺は、その領地の貴族にすら、直に話したことは無い。
ただ一人を除いて、アースドラゴンを召喚し、毎日王都の空を飛び、警護視察する、第一王女アルヴァ・キュイ・サリーリャ。
空高く舞う為、そのお姿は、遠目でしか確認出来ないが、彼女は王族でありながら、空騎士団第三部隊隊長という、素晴らしい御方だった。
その彼女にすら、守護騎士が常時二人付いている。
世界にただ一つの『受け継がれ』加護である、『
『受け継がれ』る可能性は、血の繋がる子の一人のみ、それを知った俺は、王子王女らが、これから背負うかもしれない重責に、ゾッとした。
王族はこのサヴァール王国、その全ての命を背負っているも、同然なのだと知ったのだ。
そんな重責を生まれながらに持つ、というのはどういう思いなのかと、農民出の俺には、想像もつかない。
自分に降りた辞令は、第二王女イエル様の守護騎士だった。
俺は、イエル様を初めて目の当たりにした時、可憐な精霊かと思った。
精霊は見た事はないが、きっと実在したら、彼女の様にふわふわしているに違いない。
間近で拝見したイエル様は、淡い金の色にオレンジの輝きが混ざった、ふわりとした髪、白い肌、やはり精霊にしか例えられない。
イエル様の御髪は、侍女が毎日整えているらしい。
彼女は空のようなブルーの瞳をされていた。
その瞳で自分を見て微笑みと共に
「我が守護騎士サイス、これからよろしくお願いします」
と、イエル王女の御印が刻まれた短剣を、絹の布で包むように、小さい両手で御持ちになり、俺に差し出された。
俺は即座に身を落とし、片膝を付き両手で短剣を受け取り
「この命に代えましても」
と自然に口から出たのだが、イエル様は
「命に代えずに守って下さい」
と最初の命令を俺に下さった。
イエル様を守護する任務の間は、意地でも生きてお守りする、困難だろうと絶対に。
こうして、イエル様の守護騎士として、任に付くと、初めて彼女の日々の日課を、知る事となった。
事前に、その日の行動予定は、引継ぎの時や週始めに、口頭で聞かされるのだが、かなりスケジュールが、詰まっている印象だ。
公務のある無しに関わらず、イエル様は、御付きの教師陣による、勉学や格闘の訓練をなされる。
そう、王女なのに、格闘訓練を、特別な日でない限り、毎日されるのだ。
彼女の加護の一つ、『剛力』、これを扱う為の訓練だそうだ。
加護持ちがいない国の、一個中隊位なら、イエル様御一人で、倒せるのでないか、と思えるくらいの『剛力』に加え、訓練で培われた回避能力、それを自分が見たのは、イエル様が七歳の時である。
俺は、もっと守護騎士として精進せねば、と自身に誓った。
そして、また今日も、イエル様はやらかした。
「イエル様!!!落ち着いてください!」
「早く木からお手をお放し下さい!!!」
早くその木の幹に、めり込んだ手を放してくれないと、木が木っ端みじんになる!
「あ!ごめんなさい!」
こんなに、ふわふわした精霊のようなお方なのに、ギャップが可愛いです、イエル様!!!
と、心の中でしか叫べない守護騎士は、きっと自分だけではない。
同じく、木を支えている守護騎士、ユリエールと視線が合う。
互いに、堪える様に一文字に結ぶ唇に、我らの思いは同じ、と頷き合うのであった。
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