~3~ 現状把握

【竜使いと宝剣】

竜の国の姫がある国に幽閉されているところからその物語は始まる。

幽閉と言っても一人の王族であり重要な特殊能力を持つ主人公は平民以上の衣食住は保証されていた。彼女は幽閉されている塔で数人の攻略対象と出会う。幽閉されている国には腐敗した貴族とその貴族達に傅かれて国民に重税を課し贅沢を尽くす第一皇女イングラシアがいた、この乙女ゲームの悪役の一人だ。

このイングラシアは皇女でありながら魔術に秀で頭も良かった、その能力を民の為の統治に使っていれば彼女の国はもっと栄えたであろう。

各攻略キャラによって辿るルートが全く異なるが最終的にはこの皇女を倒し、国を救い主人公は生まれ故郷に帰り攻略対象と幸せに暮らすという乙女ゲームだ。



「お姉様はそのめちゃチート魔法を使う悪役皇女に見た目も声もそっくりなのだけど、ゲームとは全然違う性格だよ、あのとんでもない魔法も使えないから別人だと思う。」

アルメイルは王区にある王族専用の図書室のこの国の歴史が書かれている書のページを捲りながら言う。

彼らの守護騎士達は扉の内と外そして窓の付近で二人の警護をしていてそこまで二人の会話は聞こえない。

「表情が全く違うからわからなかったわ。やっぱりここは【勇者と花冠の姫】の世界なのね…って事はあの海賊の青年には会えないのね」

(でも、キュイお姉様はあのゲーム以前にどこかで見たような気がするのだけれども、思い出せない)

ゲームじゃなかったような気がするとイエルは呼び出せない記憶を後回しにした。

色々な攻略キャラを見てきたが彼女は【桜舞う亡国の騎士と賢者】の通称・海賊ルートに出てくるキャラクターが好きだった。読みかけの本を開きながらイエルは人差し指を顎にとんとんとあて僅かに首を傾けてそのルートを思い出していた。

「今は少年じゃないかなあ、会おうと思えば会えるかも?」

「えっ!」

「だって、【桜舞う亡国の騎士と賢者】は【勇者と花冠の姫】のという裏設定があるんだよ」

(なにそれ、初耳なのだけど⁉)

ぱちくりとイエルは数回瞬きをする、彼女のその表情にアルメイルは肘を付き、顎を掌で支えた仕草でにやりとする。

「だからこの二つの乙女ゲームはファンの間では続き物として認識されていてね、バッドエンドだから攻略キャラはハピエンルートのような姿では出てこない。」

こうやってマニア?オタク?な説明をしているアルメイルを見ているとイエルは、ああ、この子は前世の妹だ、と嬉しくなる。

「もし、【勇者と花冠の姫】が先に作られていたら幼少の彼らがゲームにちょっと出ていたかもしれないという妄想の小説がコアなファンの間では流行っていたよ」

(ということは、あの人がこの世界に居る⁉)

その素敵な現実へのわくわくを口に出さずにイエルは両手を胸の前でヒシッと合わせ組んだ。

彼女のその仕草にアルメイルはクスリと笑う。

姉はゲームの攻略キャラの個々には然程興味を示してはいなかったが、海賊ルートに現れる彼には目を輝かせ妹がプレイしている画面を見ていた。

(そう言えば彼が好きな理由は聞いたことなかったな)

「彼ならまだ海賊にはなっていないかもだけど、あの島国に、キャルドゥズ王国にいると思うよ、【桜舞う亡国の騎士と賢者】が連なる世界だとしたら…僕達と同じ歳かも?」

あの彼がこの世界にいるのなら会ってみたい、イエルはその可能性に浮足立ち重大な未来を見損ねた。

「イエル、会う前に僕らは考えなきゃいけないことがある」

これまでにない真剣な表情をしたアルメイルは声を落として言葉を続ける。

「この世界でのバッドエンドルートを回避しないと僕達は、僕達の国はと周辺国は滅びてしまう、【桜舞う亡国の騎士と賢者】ではこの国は存在していないんだ」



この世界が【勇者と花冠の姫】の世界である事は『加護』と『新生加護』が存在している事から間違いない筈だ。若干の登場人物の違いはあるようだが基本設定は国の歴史書や周辺国との関係性を調べてみて間違いない。

大きな違いは主人公の位置に双子である自分達が置かれているという事だ。

前世のゲームでは第二王女は双子ではないし第一王子は存在しない。つまり主人公の位置に双子である自分達がいるという事だ。

「どうしてかしら」

イエルはそっと本を閉じた。

「わからない。けれど、回避の為にも今後起こるかもしれないバッドルートへのイベントを見つけてクリアしていかないと、それも僕達が直接クリアしないとならないと思う。」

二人は顔を寄せ秘密の会議をするように声を潜める。

「僕達はまだ九歳だから最初のイベントは五年後の建国祭での『神聖雨しんせいう』を降らせる時だ」

グッと拳を作りアルメイルは子供の低い声で言う。

「お父様が大怪我をされ、お姉様が攫われる未来を回避するのね」

あのイベントはどういう展開だったかと従者に紙と鉛筆を用意して貰う、不思議なことにこの世界の紙と鉛筆は前世のものとほぼ同じ形状だ。両方とも『契約』や『史実』の加護持ちの記憶物生成能力によるものだ。この世界では『契約』は主に魔族に対して行うが現在魔族は巨大大湖アブールの底に沈められた契約の書により北の領土から出てこられない。その契約の書は『契約』の加護を持った者が魔王に署名させた、その方法は伝わっていないがその者は世界の歴史に名を刻んでいる。

「私、思ったのだけど、あのお姉様を攫える人間っているのかしら?」

今や王女でありながら王国騎士団の隊長に任命されるとんでもない強さ、召喚されているアースドラゴンは神格級で地図すら変える。

「確かに、五年後まで戦闘訓練続けた僕ら二人がかりでも勝てる気がしないよね」

第一王女の規格外さは国内外に知れ渡っている筈だ、そこをわざわざ狙ってくるのか甚だ疑問ではある。ゲームとはイベント自体の発生とクリア方法が変わる可能性すらある。

「姉上だって人なのだから絶対はないわ」

この世界は加護の他にも錬金術というものがある。それを用いればあるいはと錬金術国家ニルドネア王国を、現在我が国とは友好国ではあるがその可能性として視野に入れなければならない。

「二人一緒に行動するよりそれぞれが動こう」

「そうね、その方が効率も良いわ、保険も多く設置出来るもの」

二人はこの難易度が上がっているかもしれないイベントに向けてやれる事はやらねばと互いに確認するように頷き合うのだった。




※出てくる乙女ゲーム、制作順。

【竜使いと宝剣】

第一王女・アルヴァ・キュイ・サリーリャが悪役皇女をさせられていた乙女ゲーム。

【勇者と花冠の姫】

この話の世界。

【桜舞う亡国の騎士と賢者】

同シナリオライターが書いた【勇者と花冠の姫】のバッドエンド後が舞台という裏設定がある。

【桜舞う亡国の騎士と賢者・2】

未プレイで転生した為、イエルとアルメイルは告知サイトの設定しか知らない。

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