~2~ 悪役皇女は願った
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、幾百回、幾千回繰り返すシステムの強制で自分は意に添わぬ役を演じさせられ続けた。
その痛みも受ける憎しみも全てが自分にとって真実として展開していく。
どうして。
私はただの冒険譚を読むのが大好きな姫だった筈なのに、一度世界が閉じられ暗闇で眠りについていた。
忘れられた物語。
眠りの中で創造主の声が聞こえた気がした。
「そうだ、このキャラクターを悪役皇女にしてみよう!彼女の容姿で極悪にしたら恐怖が増すじゃないか!?よぉーし、よし、イイねぇ!」
悪役って何?
私は
人を傷つける事が怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ
どうして私にこんな事をさせるの?
「あはははは!無駄よ無駄よ!!お前達如きの力ではね!!!」
憎まれ殺されてもまた始めから言いたくない言葉を、振舞いたくない悪しき事を、大好きな王子様に罵詈雑言を浴びせられ剣で貫かれ、あ、あ、あ、あ、あ、気も狂わせて貰えない、何故なら、システムの設定の強制リセットでスッと意識が真っさらにさせられるから。
でも、何故、どうして、創造主は私に終わらない繰り返される地獄を与えるのか
助けて
私をこの繰り返す地獄から
助けて
助けて
助けて
何千回目かの死を迎えた時、私の意識が光に照らされた。
声が響く。
『吾が貴方の望みを叶えましょう』
誰?
『前の世界で貴方に救われた吾が貴方を救いましょう』
前の世界?
『貴方は竜狩りに捨てられた卵を温めて吾を誕生させてくれた』
嗚呼、あの時の幼い綺麗なドラゴン
『吾と共に往こう』
大きくなったドラゴンに手を伸ばす
この世界から逃げられる?
本当に?
死と同時にいつもの聖歌隊の時間に戻らなかった。
私はやっとこの『桜舞う亡国の騎士と賢者』というゲームという世界から逃げ出せたのだ。
「ぅん…」
背にあたる心地よい温もりに身を捩りその存在に頬擦りする。
城下の空からの巡回から戻り城壁にある物見で眠っていた彼女はいつも一緒にいるドラゴンの傍らで目を覚ました。
広く青く広がる空に心地よい風が吹き右肩辺りで一つに束ねている金色にオレンジ味が入った柔らかい髪がなびく。
「少し寝過ごしてしまったわ、そろそろ巡回の時間かしら」
腰に下がる鎖を引くと懐中時計を取り出し時刻を確認する、まだ時間には早かった。第一王女アルヴァ・キュイ・サリーリャはアースドラゴンと共にいる時は騎士団の制服に袖を通す。その団服の色は彼女が乗るアースドラゴンと同じ色で土色に淡い緑を織り込んだような生地で出来ている。
アースドラゴン、大地の魔法を使えるドラゴンである。
この世界での『新生加護』としての彼女の加護『召喚』でいつも彼女の傍にいる。
『召喚』という加護を持つ者はサヴァール王国では珍しくない。彼女の様に神格レベルのドラゴンを召喚出来る者は現在いない、飛竜等の騎乗出来る個体を召喚出来る者は割とおり、殆どの者は騎士団に入隊にいる。
王国騎士団は総団長を筆頭に副総団長がおり、東隊・西隊・南隊・東隊・王族守護騎士隊・衛兵・城下警邏隊、等がある。
騎士団は国民の憧れの職業のひとつだ。騎士団への入団は毎年の国家試験と面接で予備配属され適性があれば一年後に入団の合否が出る。
例え不合格でも一年の予備配属での訓練や勉学で他の職業への就職が有利になるので毎年試験を突破するだけでも最難関と言えよう。
因みにキュイ王女は空騎士隊の隊長でもある。
何故なら彼女は国王と王妃を説得し、その試験を見事突破し予備配属期間の成績すら同期配属の首位で終えた程のチートな能力を所持していたのだ。
空ではアースドラゴンを駆り、地上では類まれな剣技で他者を圧倒したのだ。彼女は『剣豪』の加護持ちである、先々代王から『受け継がれ』によって彼女が所持する加護の一つである。
しかし加護だけで彼女が今の地位を獲得したわけでは無い、日々欠かさない訓練と戦闘の為の学び、民をあらゆる災厄から守ろうとする王族としての意識、そして国民からの接待的信頼が彼女にはあった。
彼女とアースドラゴンは長い歴史の中、サヴァール王国国民を隷属させようとしてきたエルドラム帝国の東の国境沿いに飛竜すら高さゆえの寒さで飛び越境出来ぬ4000m級の山脈を出現させその侵攻を物理的に阻んだのだから。
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