0.2神々の住む地

「お、いたいた」


 酒場の中で一人の男が酒を飲んでいた。


「おい聞いたか、今度のオークションに珍しいものが売られるらしいぞ」


 肩肘ついて酒とつまみを口に運ぶ三十代の男にその知人が話しかけていた。


「あぁ、地下遺跡からついに帰還者が出たとかいう奴が持って帰ってきた品々だったよな」


「なんだよ、もう知っていたのかよ…」


「そこらじゅうで噂になってたからな、世界初の偉業だとかいろいろと…」


「まぁそうか、ちなみにその品々が出されるのは今日らしいぜ?」


 男はめんどくさそうに答える。


「俺はいかないからな」


「相変わらずつれねぇな…」


 去り際に知人は振り返り、


「後で後悔しても知らねぇぞぉ、強力な武器や防具があっても俺が買っちまうぞー!」


 と叫んでいた。

 だが、男は知っている。

 この日の早朝に昔の知り合いに呼び出されて出土品を売ると宣言されたのだ。


「一緒に向かったあの遺跡覚えてるか?」


「…あぁ」


「少ししかないがあそこから持ち出したものを売ろうと思うんだ、そしてそれで手に入れた金はしっかりと分け合おうって思って…」


「…そうか」


 どこまでも冷めきった態度の男に昔の知り合いは心底心配そうに声をかける。


「本当なら仲間のみんなに分配したかったけれど、もう無理だからその分しっかりと俺たち二人で有効活用しないと失礼だろ?」


「…あぁ、そうだな」


「っ…俺はお前のせいだなんて思ってないからな、絶対にお前を迎えに来るからな!」


 そう言って知り合いは走り去っていった。

 あいつに心配かけすぎるのも申し訳ないが、好きだった人と信頼しあっていた仲間が十五人も死んだのはさすがに来るものがあった。

 しかも理由はパーティが巨大な魔物と戦っていたところに横から別の虫型魔物が突っ込んできて、防御役の俺が重傷を負ったことだ。

 もしも隠れていた虫型魔物に気が付いていれば直後に囲まれてしまうなんてことにはならなかっただろう。

 もしもあそこで自分が別の魔物を倒した直後に気を緩めなければ、こんなに犠牲も出なかっただろう。

 必死に逃げたが、重傷を負った男が一番足手まといになっていた。


 魔物の鎌が襲い掛かってきたのをずっと好きだった人が間に割って入って代わりに受けた。

 首から上が宙を舞うのを見た。

 帰ってから遺跡で見つけたものを売った金で指輪でも買って告白をしようと思っていた相手の頭部が宙を舞っている。

 夢だと思いたかった。

 現実を受け入れたくなかった。

 しかし、動けずにいた男をその仲間が引っ張って逃がした。


 一心不乱に逃げた先には広い空間があり、その中央に人より五倍以上大きい立派な鎧が座っていた。

 ここを最初に通った時は無かったもので警戒するべきなのだろうが、今は背後から魔物の群れが追いかけてきている。

 その鎧は男たちが部屋に入ってきた瞬間、前方を走っていた四人をとげの付いたメイスで横の壁に吹き飛ばし、肉塊になった。


「ひるむな!走れ!」


 もともと今回は三つの六人パーティの合同での探索だった。

 今の声はそのまとめ役をしてくれている人の声だ。

 彼はパーティの四人が目の前で吹き飛ばされたのを見てこの動く鎧に勝てないと瞬時に判断し、残りの全員を逃がすことにしたのだ。


 しかし、出口に出たころには三人しか残っていなかった。

 十一人があの巨大なメイスにやられ、四人が追ってくる魔物と途中で遭遇した魔物にやられた。

 魔物の巣に飛び込んで過去の遺物を発見してくるのが今回の目的だった。



 今回の遺跡探索は特に期待度が高い場所だった。

 しかし同時に危険度も同じくらい高かった。

 …いや、知らされていた以上に危険の多い場所だった。


 正直に言うと、甘く見ていた。

 それまでうまくいっていた分気が緩んでいたのかもしれない。

 今ではもう見る影もないのだろうが、あそこは昔から恐れられていた土地だった。

 なぜならば、あそこは昔から特殊な呼ばれ方をしていたからだ。

 皆に聞けば皆がこう答えるだろう…






 ーー神々の住む土地だと。

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