第10話 基地
「………………………………………。」
目が覚める。
すると、私の目には見覚えのない天井が映った。
ぼーっとしながらも少し視線を下すとそこに映るのはベッドと毛布。
私の家にあるような石みたいなやつとは違い、
ふかふかでありながらも程よく反発するいいベッドだ。
更に周りを見渡すと、四方は真っ白な壁で塞がれており、窓と扉が一つずつある。
部屋は大分広く、体感的には私の家のリビング(4畳半)の倍くらいある。
…………って、いや、どこ、ここ。
一通り部屋を見渡して、頭も冴えてきた私は純粋な疑問を浮かべる。
麗を倒した後、異能が暴走して夜神さんに助けてもらったところまでは覚えてる。
でも、そこから先の記憶が一才ない。
一体、何がどうなって…………。
そんな感じで私がこれから先どうしていいか迷っていると、突然、部屋の扉が開かれる。
すると、そこから現れたのは、私のクラスの担任教師、望月絵里先生だった。
「っ!せ、先生……?」
私はまさかの人の登場に驚きつつも、反射的に寝かせていた身体を起こす。
「あっ、結星ちゃん!起きたんだ!良かったー!!」
そう言って嬉しそうに私に近寄ってくる先生。
だが、まだ混乱中の私はその状況をすぐには飲み込めない。
とりあえず、私は混乱しながらも失礼のないようにベッドから降りようとする。
しかし、それを見た先生は「そのままでいいよ」と言って再び、私をベッドに入れた。
いや、寝てる方が話しづらいんだけど。
というか、
「な、なんで、ここに先生が?もしかして、ここは先生の家……なんですか?」
私はとりあえず、思いついたことを声に出して、
そして、そのままその質問を先生にぶつける。
「うーん、まぁ、ここは私の家……っていうか、なんというか、みんなの家かな?」
は?
「ご、ごめんなさい。意味が分からないんですけど」
「あー、えーっとね、だから、ここはアストラの基地(?)の一室……みたいな?」
「っ!!?」
ア、アストラの基地!?
な、なんで私がそんなところに…………。
って、いや、それよりも、
「せ、先生もアストラのこと、知ってるんですか?」
「えっ、うん。だって、私もアストラのメンバーだし」
え?
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?」
先生がアストラのメンバー!?
な、なに、それ。学校教師兼異能警察ってこと?
「ほ、本当ですか、それ」
「ホントだって。それにほら、私、結星ちゃんにアピールしたじゃん」
アピール?
いや、そんなのされて…………、
「あっ」
『結星ちゃん、捜査……頑張ってね』
あ、あれかぁあああ。
そうか。だから、あの時、夜神さんは先生は犯人じゃないって。
「いや、あれだけじゃ気づきませんよ。もっと分かりやすく言ってくれないと」
「分かりやすく言ったらミステリアスな女感が出ないでしょ。あのくらいがちょうどいいの」
「…………は、はあ。そうですか」
私はこの人の発言を理解するのを諦め、適当に返事を返す。
夜神さんといい、八雲さんといい、アストラには変な人しかいないのだろうか。
「それで怪我の具合はどう?異能で治療したからもう大丈夫だとは思うけど」
先生にそう言われて、私はここで初めて自分の身体から痛みが消えていることに気がつく。
「っ!」
そういえば、あれだけ傷があったのに傷一つ無くなってる。
ってか、服も着替えさせられてるんだけど、まさか夜神さんに着替えさせられたわけじゃないよね?
「…………あ、ありがとうございます。もう大丈夫みたいです」
ちょっと気になる事は出来てしまったが、それを聞く勇気はないので、
とりあえず、私は先生に感謝を伝える。
「いやいや、お礼を言う事ないってー。どう考えても、無理させたボスが悪い!
まぁ、結星ちゃん治療したの、私じゃないけど」
「いえ、夜神さんは私の意思を尊重してくれただけですから」
「そう?まぁ、被害者である結星ちゃんがそう言うならいいけどさー」
先生はそう言うとプーっと子供のように頬を膨らませる。
どうやらまだ納得はしていないようだ。
「ちなみに結星ちゃんが気絶した後の事を簡単に説明しちゃうと、
今回の事件の犯人である麗ちゃんの身柄は警察に引き渡されたみたい」
「っ!」
麗が警察に…………。
当然と言えば、当然のこと。
殺人を犯しておいて無実なんて事はあり得ないし、私もそれを擁護するつもりはない。
でも、警察に引き渡される前に少しだけでいいから麗と話がしたかった。
「で、それから、ボスの指示で結星ちゃんだけはこっちで回収して、看病したってわけ。
この後、どんな感じのニュースになるかはまだ分からないけど、
多分、華ちゃんのことは通り魔の犯行って事になるんじゃないかなぁ。
麗ちゃんが犯人ってなると色々矛盾が生まれちゃうし、異能の事は伏せないとだから」
「…………そ、そうですか」
いきなり界隈の闇を見た気がするけど、
でも、こういう犯罪を生まないためにも必要な措置だと思う。
「だから、結星ちゃんの事件も包み隠されちゃうと思うんだけど、大丈夫?」
「はい。他言もしないので安心してください」
「そっか。ごめんね、こっちの都合で色々と」
「いえ…………。元はと言えば、全て私の責任ですから」
もっと早く麗の事に気づいていれば。
もっと早く自分の事に気づいていれば。
今になってそう思わずにはいられない。
「…………私から言う事はこれで終わりだけど、なんか聞きたいこと、ある?」
私の心情を察した先生はより一層優しい声で私にそう聞く。
聞きたいこと…………。
「夜神さんって、今どこにいますか?」
聞きたいことと言われ、私は最初に頭に浮かんだ人物の名前をあげる。
「ボス?あぁー、多分、この家の屋上にいるんじゃないかなぁ。
この時間帯は任務がない限り、大体そこにいるし。今日星が綺麗だし」
「ほ、星……?」
「うん。ボス、ああ見えて星が好きなんだよねー」
「そ、そうなんですか?」
私は結人さんが星に目を光らせる光景を思い浮かべる。
…………し、しっくりこない。
「意外でしょ」
「しょ、正直」
そういう景色とか見て感動とかとは無縁の人みたいなイメージがあった。
「多分、今なら会えると思うけど、行ってみる?」
「………………………………………。」
先生の提案に私は即答することが出来ない。
勿論、行きたい気持ちはあるし、行かなければいけない。
そういう気持ちがあって、私もどこにいるのかと聞いたのだと思う。
けど、いざ会うとなると、
まだ何も決まってない状態であっていいのか…………。
「…………迷ってるなら行くべきだと思うよ。
やっぱり人は自分の事になるとどうしても偏った見方になっちゃうからさ。
横から口を出してくれる人もたまには必要だと思う。
まぁ、それは本来なら先生である私がやるべきなんだろうけど、
ほら、私こういう性格だし、人生左右する相談とか無縁のタイプだし。
でも、ボスならきっと結星ちゃんが望む答えを一緒に考えてくれると思う」
私が望む答え…………。
「そうですね。…………決めました。私、夜神さんに会います」
「うん。それじゃあ、屋上まで案内するよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます