第6話 気がかり

「…………なんであんなところでやめたんですか?」


学校から出ると私は早速、夜神さんにそう問いかける。


「なんでってどういうことだ?」


私の質問に足を止めることもせず、歩きながらそう返答する夜神さん。

らしいといえばらしいけど、その背中は何かを隠しているような、そんな気がした。


「惚けないでください。望月先生のことです。

あの人の言動はどう考えてもおかしかった」


「おかしい、どこが?」


本当に気づいてない?

いや、この人に限ってそんなはずがない。


「私達に華と会ったことを隠してました」


「ただ忘れてただけだろ」


「それだけじゃありません。最後、私にだけ聞こえる声で『捜査頑張れ』って言ったんです」


「普通にお前への激励だと思うが」


「違います。私は一度も捜査に協力してるなんて言ってません」


「最初に俺が言ったろ」


「あれは先生達と同じで『一時的に』という意味に取るのが普通です」


「その普通があの教師には通じなかった。それだけの話だろ」


「………………………………………。」


やっぱり。この人は私に何かを隠してる。

今までも何度かそう感じることはあったけど、ここに来てからそれが顕著に現れ始めた。


「とにかく、あの2人はシロで間違いない。逆に明日葉麗のクロ説が濃厚になった」


「っ!」


「明日葉麗には罠を仕掛ける。奴を呼び出し、『俺だけはお前が犯人だと知っている』と伝え、

その反応次第では現行犯逮捕だ。ここから先は血が飛び交うことになる、お前はもう帰っていい」


「っ!」


ここまできて帰る?

そんなこと出来るはずない。


「いえ、私も……いや、その役目、私にやらせてください」


私が夜神さんの言葉に対してそう返答すると、夜神さんはようやく足を止める。


麗のことを友達と思ったことはないけど、

それでも華と一緒で1年間くらいずっと一緒にいた。

今の信用に掛けるこの人に任せることは出来ない。


「私なら違和感なく、確実に麗と接触することが出来る」


「いいのか、友達が堕ちる瞬間を目の前で見ることになるかも知れないぞ」


「覚悟の上です」


「…………そうか。なら、お前に任せる。決行は日が沈んだ頃、

場所は宮内華が殺害された現場だ。それまでに準備をしとけ」


「はい」


…………その時、私は見逃していた。

目の前にいる男が頬を緩ます瞬間を。



◆◇◆◇



夜になるまではまだ時間があるということで、私は一度、家に帰らされていた。

ちなみに麗にはもう今日の19時頃、会う約束をしてある。

『華を弔いに事件現場まで一緒にいこう』と連絡したところ、すぐにOKとの返事が返ってきた。

あとは時間になったら、またあの場所へ向かうだけだ。


約束の時間になるまで、勉強でもしようかと思ったけど、流石に手がつかなかった。

今回の事で思ったけど、意外と私は普通の人間味も持ち合わせてるらしい。

しかし、約束の時間までまだ7時間ほどある。

何もしないわけにもいかないので私は今、ある2つのことについて考えていた。


1つは夜神さんが望月先生をシロと断定した理由。

あの時の望月先生は言葉、行動共にらしくなかった。

夜神さんは偶然と言っていたけど、この状況で出る偶然は焦りから生まれるものの可能性が高いはず。

それに疑わないだけならまだしも、夜神さんはあの会話だけでシロと断定してみせた。

そこが怪しい。何か私が見落としてる部分があるのか、気になる。


そして、もう1つがやはり麗が犯人であった時の麗の異能だ。

少し前にも話したけど、麗にはアリバイがある。

私が今日、学校に登校したのは7時55分。でも、麗は確実にそれより前には登校してた。

一方、華が殺された時刻は7時40分から45分の間でここから学校までに掛かる時間は徒歩で約10分。

ここから更に事件の後片付けや諸々を考えると、やっぱり異能がないと厳しい。


けど、その異能がなんなのか…………、それがさっぱり分からない。

いや、正確には分からないというか、実現可能か分からないという感じだ。

例えば、パッと思いついたので言うと、時間の停止。

これならアリバイの証拠づくりは簡単だろうし、色々準備すれば足も残さず行けると思う。

でも、そんな馬鹿げたことがあり得てしまうのかが分からない。


そもそも私はあんまりそういう事に詳しくないし、

実現可能か聞こうにも夜神さん達はどっか行っちゃったし。


…………そういえば、夜神さんって何で私を組織に入れようとしてるんだろう。

今日初めて会って、異能のこと教えられて、いきなり事件現場に連れてかれて、

今まで思考を放棄してたけど、改めて考えてみれば、変な話だ。

この事件に私の力が必要だったとは思えないし、会うのもこれが初めてだろうし。多分。


あと、考えられるとすれば…………、


私は自分の手を目の前まで持ってきて考える。


異能…………。

もしかして、私にも使えるのだろうか。


今まで考えたこともなかった。

自分の中に自分の知らない力があるかなんて。


私は何となく手に力を込めてみる。

しかし、それ以上は出来ず、すぐに手から力を抜いた。


怖くなってしまったんだ。


使えたらどうなるんだろう。

使えなかったらどうなるんだろう…………。



◆◇◆◇



『熱い…………』


私は身を焦がすような熱を感じ、目を開ける。

すると、そこにあったのは猛々しく燃える灼熱の太陽だった。

幻想的でありながらも、確かに存在するそれは私の目を奪う。


そして、気づくと私はその太陽にそっと手を伸ばして…………、




『ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ』


夕方6時。


私は一応セットしておいたアラームの音で目を覚ます。

外から差し込むオレンジ色の光。

どうやらいつの間にか寝てしまっていたらしい。


「あれ、今なにかを…………」


目を覚ました私は記憶から重大な何かが抜け落ちた感覚に駆られる。

しかし、少し考えても思い出せずにすぐ思考を放棄した。

そして、無意識に手を伸ばした目覚まし時計に目を向ける。


…………もうこんな時間。


「ふぅ」


私は床に寝そべった状態から身体を起こすとそっと息をつく。


麗が犯人なのか、犯人じゃないのか。

生きて帰れるのか、死ぬのか。

この先の展開は全く想像がつかない。


でも、行かないことには何も変わらない。


「…………準備しよう、」

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