第4話 容疑者

「この事件もそうだが、異能を使えば、世にいう完全犯罪も簡単に成立させられる。

例えば、過去に実際あった事件だと、手で触れた物を狙った標的に必ず飛ばすことの

出来る異能で5キロも先から殺人をしてみせた奴がいた」


ご、5キロも先から?


「その犯人はどうやって特定したんですか?」


「うちのオペレーターが事件現場付近にある、ありとあらゆる防犯カメラを確認して、

手がかりを探し、凶器が空を飛んでる映像を発見して、

その凶器がどこから飛んでるかを割り出し、最後は現行犯で捕まえた」


「現行犯で?」


『捕まえた』だけでいいはずなのにわざわざ『現行犯』という言葉を使った

夜神さんの言い回しに私は違和感を覚える。


「あぁ。数人に絞った候補に接近し、敢えて、怒りを買うような行動をとったんだ。

そしたら、犯人はすぐに狙ってきた。で、現行犯逮捕」


「っ!」


1人を逮捕するのにそこまで…………。


「いかに俺達でも証拠のない人間を捕まえることは出来ないからな。

証拠を残さない人間には証拠を作って捕まえるしかないんだ」


なるほど。


「…………つまり、今回もそういうタイプの事件だということですね」


「まぁ、そういうことだ」


なんだか長丁場になりそう。

とりあえず、絶対に1時間では終わらない。


「でも、ということは、私達はそのオペレーターさん達が手がかりを掴むまで何も出来ませんよね?」


「あぁ」


あ、あぁって。


「じゃあ、私達、これから何するんですか?まだ防犯カメラの確認は終わってませんよね?」


「いや、防犯カメラの確認はもう終わってる」


「え?」


もう終わってる?

まだ事件が経ってから2時間くらいしか経ってないのに?


「うちのオペレーターは優秀なんだ」


いや、優秀とかそういう次元じゃないと思うけど…………。


「それで、結果はどうだったんですか?」


「…………手がかりなし」


は?手がかりなし?


「それって結局、手がかりを見逃してるだけなんじゃ?」


「いや、アイツがないと言ったなら絶対だ。少なくとも、表面上にヒントはない」


アイツ?

それが誰を指すのかは気になりはしたが、今は時間がないのでスルーする。


「でも、それじゃあ、どうやって…………」


「簡単だ。また推理の時間に戻る」


は?


「いや、だから推理じゃ解らないから防犯カメラでってことじゃないんですか?」


「あなたがさっきしたのは異能がこの世にない話の推理。

これからするのは異能がこの世にある話の推理です」


「っ!」


…………そうか。改めて、自分の地頭の悪さに嫌気がさす。

これは私が今まで生きてきた人生の常識で考えてはいけない問題。

もっと思考を柔軟に、想像を膨らませないと。


「防犯カメラに手がかりはなかったが、逆に防犯カメラに証拠が残らないという手がかりは掴めた。

それを踏まえて、結星、犯人はどういう異能の持ち主だと考えられると思う?」


またもや夜神さんから私に出される問題。

しかし、今度は問題を出されるより先に私は頭を回していた。


私がこの事件を解決するには思考のベクトルを変える必要がある。

現実的ではなく、非現実的に。推理ではなく、想像で。

犯人の異能を考えるのではなく、どんなことが出来れば完全犯罪を成功させられるのか。

そう考えてみると、不思議と色々な選択肢が浮かんでくる。


「透明人間……っていうのは、難しいですかね?」


私はとりあえず、最初に浮かんだ考えを口にしてみる。


「なるほど、透明人間。八雲、どう思う?」


「…………50点」


「っ!」


テストの点数ならとても喜べないけど、初めて点数がついて私はつい喜びを感じてしまう。


「さっきよりは大分いいです。でも、私だったら触れたものを透明にする異能にします。

何故なら、透明人間では服やナイフなどのものは浮かぶように見えてしまいますから」


「な、なら、一回普通の状態でここを通って、ここにナイフを隠して置いておいて、

家に戻り、今度は透明になった状態で家を出て、ここでナイフを拾い、殺したとしたら?」


「そ、それなら75点。ですが、それならナイフに指紋がついてるはずです。

手袋をして殺したとしても、持ち帰る時に血まみれの手袋が浮いていたら目立つでしょう」


ウッ…………、たしかに。


「じゃあ、指紋を焼いたとしたらどうだ?」


「「っ!」」


何を言っても言い負かされて私は敗北感を感じていると横から夜神さんがそう提言する。

指紋を焼く?たしかに酸かなんかで指紋を焼けば一時的に指紋を消せると聞いたことがある。


「流石、ボスです。それなら100点でした」


えぇぇぇ…………。

私の時とは違い、神でも称えるかのようにそう告げる八雲さん。


「いや、でも、指紋を焼くって相当の…………」


『覚悟がいる』と口にしようとしたところで私はある事に気づく。

あれ?そういえば、私の考えも夜神さんの考えも、


「そう、犯人が宮内華を標的にしていたことを前提で考えてる」


またもや、私の思考に割り込むように夜神さんがそう代弁する。


「そして、多分、それは当たりだ」


「え?なんでですか?」


「宮内華がナイフで刺されたのは9回。恨みを持ってないとそんなに痛めつけないだろ。

少し考え方を変えれば『9(苦)』という取り方もできるしな」


「…………たしかに」


「そう考えると、自ずと答えは絞れてくる。犯人の異能がなんなのかは一旦、置いといて、

犯人が宮内華を狙って殺したのだとしたら、凶器がナイフである以上、

まずこの道が宮内華の通学経路ということを犯人は知っていなければならない」


ん?


「ちょっと待ってください。それはまだわからなくないですか?

ずっとつけていて、人通りが少なくなったこの道でという可能性もあるじゃないですか」


「防犯カメラの映像。忘れてないか?」


「っ!」


…………しまった。思考のベクトルを想像に変えたあまり、現実の方の認識が抜けていた。

そうだ。防犯カメラの映像に手がかりとなるものは何も映っていなかったというのも忘れてはいけない。

さっきの私の透明人間にしろ、そこまで練られた殺人なら計画的な殺人事件である可能性が高い。


「それに加え、宮内華が防犯カメラに映ってる映像でここ1ヶ月、

宮内華をつけていたような奴はいないことを警察が確認した。

まぁ、もし犯人が結星の言う、透明人間だったら透明状態でつけていたという可能性はあるが、

そうでないとしたら、宮内華を殺した犯人は宮内華に近しい人間である確率が非常に高い」


「っ!」


華に近しい人間…………。


「宮内華の通学経路を知っていそうな人物、お前なら知ってるな?」


「…………はい」


例え、友達じゃなくても華のことは近くで見てきた。


「華の通学経路は華の家族とクラス担任の望月先生、

あと多分、副担任の吉田先生なら知っててもおかしくないと思います。

でも、それは本来の通学経路なら、です」


「本来の経路なら?」


「おそらく、ここは学校が推奨している通学経路じゃありません。

…………以前、華が言っていました。『最近、裏道を見つけた』と。

だから、華がこの道を使ってるのを知ってるのはその話を聞いていた人だけ。

そして、それを聞いていたのは私と…………、華と親友関係にある明日葉麗だけです」

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