第3話 推理

家の外に出ると、夜神さんの言う通り、車が用意されていた。

あんまり車は詳しくないけど、ボロアパートには似つかわしくない黒い外車だ。

見るからに高そう…………。


「一応、確認なんですけど、夜神さんって18歳超えてるんですよね?」


私は車で移動するにあたって一つ心配な事を確認しておく。

しかし、


「いや、お前と同じで今年17の16歳だけど」


「…………………………………………。」


か、顔立ちとかやけに幼いし、まさかとは思ってたけど、

本当に私と同い年だった…………。


「ど、どうするんですか、車。当然、免許持ってませんよね?」


「あぁ。だから、コイツに代わりに運転してもらう」


夜神さんがそう言うと、車の運転席の扉が開かれ、そこから1人の男の人が出てきた。

190はあろうかという高身長にモデルのような長い脚、そして、

馬の尻尾みたい伸びた後ろ髪にハイネックの服で隠された口元。


私のその人への第一印象はとりあえず、キャラが濃いだった。


「初めまして、私はアストラのメンバー、黒羽八雲くろばやくもと申します。

苗字が黒羽で異能もそれっぽく、よくどこぞの大怪盗と間違われますが、

私の名前は八雲なのでくれぐれも間違えないようにお願いします」


…………なに、この人。

夜神さんに負けず劣らずの変な人。


「あ、朝日結星と言います、よろしくお願いします」


私はその人……八雲さんのキャラに圧倒されつつも、そう返事を返す。

夜神さんといい、この人といい、やっぱりこういう世界には変な人が集まるのかも知れない。


「知ってます。あなたはちょっとした有名人なので」


「えっ、」


私が有名人?


「それって、どういう…………「おい、ダラダラと喋ってないで早く行くぞ」


私が八雲さんの発言の意図について詳しく聞こうとすると、

いつの間にか車に乗っていた夜神さんがそう言って話を遮る。


「おっと、私とした事がボスを待たせてしまったようですね」


え、ボ、ボス?


「さぁ、話は後です。早くあなたも乗車してください」


「あっ、はい…………」


私は八雲さんに誘導されるがまま、車に乗り込む。

そして、椅子に座り、落ち着くと再度、疑問が浮かび上がってくる。


…………えっ、ボス?



◆◇◆◇



元々歩きの距離、車での移動ではものの数分で現場に到着した。

現場は学校付近の人通りが少なく、道幅もかなり狭い一本道。

そこはブルーシートで覆われており、パトカーが数台止まっている。

しかし、夜神さんと八雲さんはそんな事を気にする様子はなく、

普通に堂々とブルーシートの中に入って行った。

私はそんな2人に不安を抱えながらも細々と後ろをついていく。


「おいおい、あんた達、何してんの!?勝手に入っちゃダメだって」


中に入ると、1人の警察官が私達を止めに入る。

…………まぁ、そうなるよね。どうするんだろう。


「許可は貰ってる。な、えーっと、前田警部」


夜神さんはそう言うと、後ろの方にいるこの中じゃ1番偉そうな警察官に向かってそう告げた。

すると、その警察官は不機嫌な表情を見せて『チッ』と小さく舌打ちをする。


うわ、すごい嫌そうな顔。

どう見ても許可もらってるって顔じゃないでしょ。


しかし、そんな顔をした割にその警察官の答えは意外なものだった。


「入れてやれ」


「っ!」


「えっ!?ほ、本気ですか、前田警部!」


私達を止めた警察官はその前田警部とかいう人の対応に驚きを見せる。

それはそうだ、私も驚いたんだから。


「本気だ。それと全員に今から1時間休憩を取ると伝えろ」


「きゅ、休憩!?前田警部、何を…………「いいからやれと言ってる。口答えは許さん」


「…………わ、わかりました」


数分もすると、その前田警部とかいう人の指示通り、

ブルーシートの中から全ての警察官が出て行き、私達3人だけが現場に残された。


「…………ちょっと、これ、どうなってるんですか?」


ブルーシート内に誰もいなくなり、3人きりになったタイミングで夜神さんに対してそう質問する。


「どうなってるって何がだ?」


「この状況に決まってるじゃないですか。それにあの警察官の対応も」


警察官が全員総出で休憩とかあり得ない。

しかも、ブルーシートや現場保存に使った道具もそのまま。


「異能のことは普通の警察官にも伏せられている。

だが、それじゃあ、俺達が現場に入ることは出来ない。

だから、警察の中に何人か異能を知ってる人を入れて貰ってるんだ」


「っ!」


そうか。だからこそのあの反応…………。

たしかに警察官からしたら用済みだと言われてるようで面白くないだろう。


「でも、もっと上手く出来ないんですか?折角の協力者なのに」


「ふっ、どこの警官が16歳がリーダーしてる組織の連中と仲良くしてんだよ」


あ、その自覚はあるんだ。


「ってか、そんなことより早く調査を始めるぞ。今回、俺達に与えられた時間は1時間だけだからな」


そう言うと夜神さんはゆっくり歩き始め、

人形に貼られたテープと『1』と書かれたマーカーの前で足を止める。

私はそんな夜神さんを追いかけて、その後ろで止まった。

すると、突然、夜神さんから何かを手渡される。


「宮内華の遺体はもう既に検視に回された。それが見つかった時の写真だ」


「っ!」


夜神さんにそう言われて私は目線を落とす。

すると、それは確かに事件直後の写真だった。


全身血まみれで倒れる華の姿。

写真からでも分かる、酷い傷だ。


「…………結星。お前、それ見てどう思う?」


「え?」


ど、どう思うって。っていうか、いきなり下の名前呼び捨て…………。


「え、えーっと、か、可哀想だと思います」


「は?誰がそんな秒で分かる嘘つけって言ったよ」


う、嘘って嘘じゃないし、嘘じゃ。


「俺が聞いてるのは事件のことだ。その写真達から何が分かる?」


私は夜神さんにそう言われて再度、写真へと目を向けてみる。

最初に目に映った華の遺体の写真だけではなく、周りの状況の写真も全部。

しかし、


「は、華が刺されたって以外には何も分かりません」


華の死体。血のついたナイフ。周りに飛び散った血痕。

シンプルが故にそれ以外、何も分からない。


「じゃあ、何の情報があれば犯人を特定できる?」


「え、な、何のって……、そんなこと私に聞かれても…………、「はぁ」


私が夜神さんからの質問攻めに困惑していると、隣からため息が聞こえてくる。

そのため息につられ隣に目を向けると、そこには呆れたような表情をした八雲さんの姿。


明らかに何か言いたげだ。


「…………全く。分かりませんか?あなたは今、試されてるんですよ」


試されてる?何を?


「あなたの力でこの事件を解決できるかどうか」


「っ!」


私は八雲さんに言われてようやくそれに気づく。

事件解決への勧誘とさっきから続く私への質問。


そうか、事件解決は私へのテスト。

そして、多分、夜神さんは…………、


「おい、八雲。余計な事言うな」


「申し訳ございません。少し意地悪をしたくなりまして」


…………私を組織に入れようとしている。


この事実を知り、私がどう思ったか、それは私にもよく分からなかった。

嬉しいのか、困っているのか。ただ一つ確かな事があるとすれば、

それを知ってからの私はこの事件に真剣に向き合うことになったということ。


私は今一度、写真をよく見て見る。

そして、さっきは見逃したある事に気づいた。


「あの、華が殺された詳細な時間を教えてもらうことはできますか?」


「死亡推定時刻は7時40分から45分の間だ」


やっぱり。写真にいつも華が学校に背負って来てるバッグが映ってる。

つまり、この道は華の通学経路。そして、華が殺されたのは登校中。


ん?死亡推定時刻は7時45分から45分の間?


「死亡推定時刻ってそんな正確に測れるものなんですか?」


「いや、こんなに正確な時刻を導き出すのは難しい」


じゃあ、なんで…………、あっ。


「防犯カメラ」


「…………正解」


そうか。この細道は住宅街と霊園に挟まれている。

霊園なら防犯カメラが設置されてもおかしくない。


「ちなみにその防犯カメラはどっちにありますか?」


「両方」


「っ!!?」


私はその想像もしなかった答えに驚く。

最初にも言ったけど、この細道は一本道だ。横から入れる道などない。

だから、防犯カメラが両方についているということは、

犯人は絶対に防犯カメラに映っているということになる。


「その防犯カメラはそれぞれこの道の最初と最後が映るところに

置いてあるって解釈でいいんですよね?」


「あぁ」


「じゃあ、警察が手こずっている意味が分かりません」


この道を通れば、絶対にそれぞれ出入り口の防犯カメラに映る。

例え、待ち伏せのような事をしてもこの道を抜けるまでに異様な時間が掛かっていればほぼ黒だ。

だから、あとあり得る可能性としては、


「霊園の従業員か、それか霊園と反対側にある家の住人が犯人で決まりです」


私は答えを導き出して、夜神さんにそう告げる。


「…………そう。警察もそう考えた」


「なら…………、「だが、容疑の掛かった者、全てにアリバイと無罪となる証拠があった」


「っ!?」


嘘。全員が無罪?


「まず霊園の関係者だが、これについては営業時間が9時からで犯行時刻にはまだ誰も出勤していない。

それは防犯カメラが証明している。そして、反対側にある3軒の家。

この家に住んでるのは全員が70以上のババア、ジジイで女子高生とやり合いになった場合、

勝てる確率は非常に低い。関係性も調べたが、どこかで見たことがある程度だった。

まぁ、ここで何回か顔合わせてるんだろうが、それも覚えてないってことだろうな」


「そ、そんな…………」


あ、あと考えられるのは、霊園に不法侵入して壁を登り降りしたパターン?

いや、それはこの学校付近でやるにはあまりにリスクが高すぎる。

誰かに見られた時点で終わりだ。

じゃあ、やっぱりこっちの家に住んでる誰かが油断させたところを…………。

いや、それなら家から華の血がたっぷりついた服が見つかるはず。

こんなすぐ思いつくことを警察が実行してないはずがない。


「…………む、無理です。私の頭ではこの事件を解決できません」


これ以上、考えても答えが出なそうだった私は下手に時間を浪費せずに諦める。

多分、1時間悩んでも私じゃ答えは出せない。


「そうか。…………八雲、今の推理は何点だ?」


「0点ですね。論外です」


言葉を濁す事なく、はっきりとそう告げる八雲さん。

0点?ということは、八雲さんは犯人が分かったってこと?


「0点か、厳しいな」


「妥当でしょう」


「何故?」


「簡単です。朝日結星は私達がここにいることを全く加味していない」


「っ!!!」


「…………分かったようですね」


私の反応を見て、八雲さんはそう言って口を閉じる。

あとは私が言え、とそういうことだろう。


そもそもこの事件を頭で解こうとしていたのが間違いだった。

それなら、それこそ警察に任せればいい話。


『力を持ったらそれを使いたくなってしまう、それが人間って生き物だ』


あらゆるところにヒントは散りばめられていたのに、何故気づかなかったのか。


「…………犯人は異能覚醒者。そういうことですね」


私がそう言うと正解とばかりに2人は頬を緩ます。


「よし。それじゃあ、話を進めるとしよう」

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