第13話 過去でも寝取られる

【5月30日(木) 12:00】


 意識を取り戻したとき、俺はどこかで座っていた。


 ……ど、どこだ、ここは?

 というか、視界がぼやけている。

 まだ目の前がハッキリしない。


 はじめて6月3日よりも過去へ来たのだ。なにかしらの影響はあってもおかしくはないけれど、ここまで体調が悪化するとは……。



「…………ぐ」



 ようやく視界が戻ってきた。

 けれど、光があまりにまぶしくて立ちくらみを覚えた。


 ちくしょう、早く澤野の行動を阻止したいというのに……!


 三分ほど俺はもがき苦しみ、ようやく視界が回復した。


 どうやら俺は『教室』にいるようだった。


 そうか。

 お昼の時間だから当然だった。

 いつもなら、紅音を誘い一緒に昼飯を食べに行くところだ。だが、今は彼女の姿がない。……どこへ行った?


 いや、それよりも澤野を近づけさせないようにする。それが最優先だ。

 席を立ち、俺は教室を飛び出した。


 ヤツは恐らく一年の教室にいるはずだ。

 しかし、どのクラスにいるのか……俺は知らない。

 しまった!

 先に調べておけばよかった。


 しかし、泣き言は言ってられない。

 一学年の廊下を歩き、俺は聞きまわった。


 だが、なかなか思うように情報収集は進まない。みんなお昼を食べに行ってしまうからだ。


 くそっ、だめか!


 そんな中、一年B組から澤野らしき男が現れた。


 アイツだ!!



「――よく来てくれました、若葉さん」

「…………仕方ないでしょ。ちょうど今しかなかったから」



 え……紅音。

 どうして、そこにいるんだ……?


 まて……今日は俺と昼飯だったはず。

 この時間帯にアイツといる光景なんてありえない!


 なのに、なぜ!!



「さあ、行きましょうか。あの四之宮よりも楽しませますよ」



 ニヤリと笑う澤野は、まるで俺の存在に気付いているかのような、そんな風に言いながらも紅音を連れてどこかへ向かう。


 ……な、なんで。


 どうして“過去”が変わっているんだよ…………!!


 これも世界線の影響なのか。

 いやだが、そんな……バカな。


 結局、過去に戻っても紅音は寝取られるということなのか。まさか、もっと以前から紅音は……澤野と関係を……?


 そんなわけがない。

 俺は信じない。信じないぞ……!




 ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう…………!




 なぜだ。なぜなんだ。

 こんな過去があってたまるか!

 澤野もタイムリープができるのか? それともタイムトラベラーなのか?


 ――いや、そんなわけがない。


 あんなゲス野郎がそんな手段をもっているがはずがない。




【6月6日(木) 17:21】



「うあああああああああああああああああああああああああ!!!!」


「ど、どうしたのさ。四之宮くん」



 俺の奇声に驚く古河さん。

 俺はそう……“未来”へ戻った。

 もう一度、古河さんにアドバイスをもらうために。


 だが、俺はもう立ち直れそうになかった。


「あいつは……澤野は……。また紅音を寝取りやがった」

「過去でも? じゃあ、その時から肉体関係をもっていたんだね」


「らしい。いつからなのか分からない。でも、紅音がそんな前から澤野と関わっていたとは思えない。ありえないんだ! だって、俺は……俺は紅音と一緒に過ごしていたんだからな!」


「つまり、澤野自身もタイムリープあるいはタイムトラベルしている可能性があると?」


 そうだ、と俺は首を縦に振った。

 それしか考えられないだろ……。

 ありえないんだ。

 紅音と一緒に過ごしていた時間さえも澤野に奪われていたなんて……なんなんだよ、これ。


 過去すらもあの男に奪われるというのか。


 考えただけで頭がどうかなりそうだ……。



「澤野を殺すしかないのか」

「深刻なタイムパラドックスが起きるかも」

「……それでもいい。俺はあいつをぶっ殺したい」

「世界が余計に混沌に向かうだけだ。意味がない」


 と、古河さんは警鐘を鳴らす。

 だが、俺の今の感情は殺意しかない。

 あの澤野がここまで俺をコケにしてくるとは思いもしなかった。


 ヤツを許してはならない。

 世界が許そうとも、神が許そうとも、俺だけはあの澤野を許さん!!

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この寝取られ人生を終わらせたい 桜井正宗 @hana6hana

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