第12話 この寝取られ人生を終わらせる為に!

 日永さんの解析作業が終わった。

 俺のアプリはどうやらガチの『タイムリープアプリ』らしく、しかしながら、この時代のものではないという。


「どういうこと!?」

「最終アップデートが2036年からになっていますね。これは未来で開発・調整されたもののようです」

「ど、どうして……」

「さすがの自分も分かりません……」


 だよなぁ。

 2036年なんてあまりに先すぎる。

 今の日永さんが分かるはずがない。というか俺も分からん。

 でも、古河さんなら分かるかもしれない。


「四之宮くん。残念だけど、あたしも知らないよ」

「え……未来人なのに?」

「多分、別の世界線の出来事なのかもね」


 そういうことか。

 もしかしたら、別の未来で誰かが開発し、URLを俺のメッセージアプリに飛ばしてきたのかもしれない。

 その張本人は誰なのかまるで見当もつかないのだが。


「それで改良はできそうかい、日永さん」

「アップデート自体は可能です」

「マジか。未来のアプリなのに凄いな」

「構造体は現代のアプリとそれほど変わりないですね。なので、日付や時間を指定できるようにするくらいなら可能かと思います」


「おぉ! すぐに取り掛かれる?」


「う~ん。三日は掛かるかもしれません」

「え……」

「突貫でアップデートするのは危険です。もしミスればタイムリープ時、重大な事故に繋がりかねません」



 それは困るな。

 ここは日永さんの指示に従うしかなさそうだ。


 しかし、三日後といえば、紅音が寝取られてしまう日だ。

 あの日まで過ごさなきゃいけないということかよ。……くそっ。



「どうしたの、四之宮くん」



 心配そうに俺の顔を見てくる古河さん。


「なんでもないよ。じゃあ三日待つよ」

「完成したらすぐに知らせますね」


 日永さんはそう約束してくれた。

 これで一応は一安心だ。


 だが、三日後……か。


 何度あの悪夢を見ればいいんだ、俺は。



 ◆


 そして三日後。

 放課後の教室では、澤野によって紅音が寝取られた。


『…………』


 澤野は、紅音のスカートの中に手を入れていた。

 指を動かし……だめだ、これ以上は見れない。


 世界線に影響を与えないようにする為とはいえ、この光景を見なきゃならないなんてな……。


 古河さんに言われて俺はこの光景を見続けていた。観測を続けていた。


 万が一があってはならないから、三日後の放課後は必ず教室の前に行くようにと。


 でも、だからといって……これはあまりに残酷すぎる。



 紅音、絶対にお前を救ってみせるからな……必ず。



 現場を立ち去り、俺はオカルト研究部へ向かった。

 そろそろ日永さんの作業が終わる頃だろう。


 ショックを受けながらも、俺はプレハブへ。


 扉を開けると、そこには日永さんがいた。


「お疲れ様です、四之宮先輩」

「日永さん……アプリはどうだい?」

「はい。無事にアップデート完了しました」

「おぉ!」

「今後は最大一週間前までタイムリープ可能です。日付や時間の指定も可能です」



 すげぇ……!

 一週間も前に戻れるのかよ。

 アプリを起動してみると、急にタイムリープするのではなく、画面が現れた。

 そこには日付・時間がシンプルに表示されていた。



【6月6日(木) 17:36】

【入力】

【記憶をバックアップする(未実装)】



 現在の時間が正確に刻まれている。

 てか、なんか記憶をバックアップなんて項目もあった。



「記憶をバックアップって?」

「まだ未実装の機能ですが、いずれは記憶だけバックアップできるようにしておこうかと」

「その必要あるの?」

「古河さんによればタイムリープを繰り返すと記憶障害が発生する場合があるらしいのです」


「そうなの!?」


「詳しいことは分かりませんが」



 そうだよなぁ。魂をタイムリープしているわけではないと思う。アプリはあくまで記憶だけを過去に送っているのだろう。

 だから記憶さえ無事なら、不具合があっても問題ないわけだ。だからこその機能か。


「俺はさっそく5月30日に飛ぶ。そこで澤野をぶちのめす」

「そういえば目的を聞いていませんでした。飛ぶ前に教えてください」

「そうだったな。日永さんにも俺のことを知ってほしい」


 簡単にだが日永さんに事情を説明した。

 紅音が寝取られてしまうということを話すと、日永さんは妙に顔を赤くした。


「……そ、そんなことが」

「あぁ。さっきも教室でヤっていたよ」

「わぁ、なんだか生々しいですね」

「俺はショックがでかいよ」

「すみません」

「君が謝る必要ないよ。それより、俺は向かうよ」

「分かりました。お気をつけて」


 俺はアプリに【5月30日(木) 12:00】と入力した。

 この時間帯くらいに澤野を見つけてブン殴る。


 やってやる。


 今度こそ寝取られない為に!


 この寝取られ人生を終わらせる為に!

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