第10話 タイムマシン
部室(?)の中は暗闇で、照明がひとつポツンとあるだけ。
入ると直ぐにシンプルな机とパイプ椅子が設置されていた。てか、机の上に水晶がポツンと……。
「う、占い?」
「そ。普段は占いをしているんだ」
「へ、へぇ……。って、オカルト研究部じゃないの?」
「それは表の看板でね。本当はタイムマシン研究部」
「な、なんだって……?」
それを耳にして俺はビックリした。
そもそも、この古河さんとは“初対面”のはずだ。なのに彼女はさも当然かのように俺の名を知っていたし、まるで旧知であるかのように接してきた。
まさかな……。
「それより放課後までは暇になる。それまでは状況を聞かせてもらおうか」
「どういうことだい?」
「前に言ったでしょ。アプリをアップデートしないとって」
「……! 古河さん、君はいったい何者なんだ……?」
そう聞き返すと、古河さんはニヤリと笑った。
やっぱり何か知っているんだ……!
「もちろん教えるよ。だけどね、これから話すことは口外禁止だよ」
「分かっている。俺のことも話す」
「うん。でも四之宮くんのことは、ほとんど知っているつもり。だから話す必要はないかな」
なんだか自信満々だな。
つまり、俺が未来から来たと知っているようだな。なぜ未来を変えようとしているのか事情も把握済みか。
となると彼女も……。
「教えてくれ」
「……そうだね。単刀直入に言うと、あたしは2036年から来たタイムトラベラーってところかな」
突然すぎて俺は脳の処理が追い付かなかった。
よって――こんな反応しかできなかった。
「……はい?」
「君はいつもその反応だね」
「いや、俺は知らないし!」
「四之宮くん、ジョン・タイターをご存知かな」
古河さんによるとジョン・タイターとは2000年頃のネット上に現れた自称・タイムトラベラーらしい。
アメリカの掲示板で実際に現れた人物だとか何とか。さすがにそんな前のことは俺は知らない。生まれてないし。
「ご存知じゃないな。それに2000年頃って今は2024年だぞ。全然違うじゃないか」
「任務の為に過去へ戻っただけだからね。2000年問題は無事に解決されていたんだけど、あたしの任務は『Wicrosoft Mindows 2000』のOSを手に入れることだった」
「なんでそんなものを?」
「四之宮くん、この時代でもWicrosoft Mindows 2000は結構使われているんだよ。知らなかった?」
「え、マジで……」
Wicrosoft Mindows 2000というOSソフトは、主に企業が利用しているようだ。最近だと大宮駅で、数年前に新大阪駅の案内モニターにWicrosoft Mindows 2000が表示されたことがネットニュースになったこともあったらしい。
「そのOSソフトがとても重要でね。タイムマシンを作るのに必要だったわけなのさ」
「タ、タイムマシン! 本当に研究していたんだ」
「おかげで完成して今はこの時代にいる」
「どうして?」
「任務だからね。四之宮くんの未来を変えるための」
「え、俺!?」
予想外すぎる答えに俺はビックリした。
まさか俺の為に動いていたなんて……。
「そう。だから、あたしはここにいる」
「でも待ってくれ。なら、古河さんのタイムマシンを貸してくれれば早くないか!?」
だが、古河さんは首を横に振った。
「無理なんだ」
「なぜ」
「タイムマシンは壊れてしまったんだ。だから、もう使えない」
「なんだって……」
そのタイムマシンは、この時代に来た途端に破損。動かなくなってしまったようだ。燃料切れではなく、ウンともスンとも言わなくなったとか。
原因は不明で、その為今は学生となってタイムマシンを研究しているのだとか。
「幸い、この時代に君と“先輩”がいたからね。助かったよ」
「先輩?」
「先輩については放課後になれば分かる」
どうやら、タイムマシン開発に関わる人物っぽいな。この時代にそんな凄い人がいるとはな。
「ひとつ聞きたい。俺のアプリは古河さんが作ってくれたのか?」
「これから紹介する先輩が作ってくれた」
「なるほど。その人を待つしかないわけだ」
「そういうこと」
いったい何者なんだ、その“先輩”とは。
早くアプリをアップデートしてもらい、紅音を寝取られない未来にしたいのにな……。まだ時間は掛かりそうだ。
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