第8話 寝取られ阻止

 俺はいったん古河さんを探しに向かう。

 だが、そのまま紅音を放置すれば寝取られる。ならばと俺は、偶然通り掛かった如月きさらぎさんに声を掛けた。


「如月さん!」

「……えっと。あれ、四之宮くん?」

「お願いがある。紅音を見てあげてくれないか」

「え? 若葉さんを?」


 困惑する如月さん。

 多分、彼女はこれから食堂へ向かうつもりだったのだろう。方向的に。


「その代わり、飯代は出すから」

「そ、それならいいけど」

「助かった!」


 今度は紅音に説明した。


「え。如月さんと一緒に行動しろって?」

「そうだ、紅音。如月さんとは別に仲悪くないだろ」

「まあね。でもなんで?」

「いいから二人で行動するんだ。頼むから!」


 俺の必死の説得により、紅音は渋々ながら了承してくれた。……よし、これで澤野に捕まる心配はない、はずだ。


 さて、俺は古河さんを探す。


 彼女の力を借りないと、今のアプリでは不安定すぎる。

 毎回、6月3日の12時に戻っていては意味がない。


 もっと過去に。

 あるいは未来に。


 行き来ができれば最強だが、せめて過去だけでももっと戻れれば楽になるのは間違いない。


 古河さんを探しに俺は走り回った。

 ……確か、前は紅音と別れて直ぐに出会った。


 でも周辺に彼女の姿は見当たらなかった。


 今回は、紅音や如月さんに声を掛けているから、行動パターンが変わったのか……?


 いや、その程度で未来が変るとも思えないが――。



 校内を歩き回るが、古河さんは見つからなかった。

 くそっ、もうすぐで昼が終わってしまう。

 だがまてよ。

 彼女とは同じクラス。

 教室で待てば会えるはずだ。

 授業をサボってでも事情を説明するしかない。



 いったん教室へ戻った。



 すでに紅音と如月さんの姿があった。俺の存在に気づく紅音は、こちらに向かってきた。……ホッ。どうやら、澤野に襲われることはなかったようだな。



「陽くん、やっと戻ってきた。どこにいたの?」

「すまん、紅音。ちょっと用事でね」

「用事ね~」


 妙に疑いの眼差しを向けられる。


「大切なことなんだ。詳しい事情は今話せない。でも、いつか話す」

「分かったよ」


 それよりも、古河さんだ。


 教室には…………いない。


 まだ戻ってきていないのか。


「ところで紅音」

「ん~?」

「古河さんってまだ戻ってきていないのか?」

「ふるかわ……さん?」


 首をかしげる紅音。その表情は誰? といいたげな感じだった。……ま、まて。そんなはずはない。


「同じクラスの古河さんだよ」

「そんな人いたっけ……」


「…………なッ!」



 馬鹿な!!

 古河さんが同じクラスではない!?


 ……世界線が変って、同じクラスではなくなったということか。そんな、まさか!


 なにが原因だというんだ……!

 まったく身に覚えがないぞ。


 しかし、これは困ったぞ。

 古河さんに出会えないとアプリをアップデートできない。結局戻れる過去は6月3日の12時に固定されてしまう。


 今から戻っても、紅音が寝取られる未来しかない。


 ……そんなのは嫌だ!

 もうあの光景を見たくない。


 どうすりゃいい……!



 チャイムが鳴り、午後の授業が始まった。

 担任がやってきた。



 くそ、このまま授業なんて受けている場合じゃないぞ。

 ええい、仕方ない!



「先生! お腹がモーレツに痛いので俺は早退します!!」

「む? 四之宮、珍しいな。まあいい、保健室へ行きなさい」



 普段の俺は真面目に授業を受けているからな。担任は疑わなかった。


 ……よし!


 紅音には小声で「ちょっと行ってくる」と言って俺は教室を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る